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食卓の定番として浸透しているパンや、老若男女を問わず多くの人を笑顔にするスイーツを取り巻く環境は、街の個人店やチェーン店、ホテル、コンビニエンスストアなど競争が激化している。では、この業界で活躍できるのはどのような人材なのか。東京調理製菓専門学校の山本佳明准教授に伺った。
スイーツ職人もパン職人も料理人も、すべては人柄あってこそ
〝挨拶の徹底”や“気配り・心配り”がこの業界の第一歩!
―製菓・製パン業界の現状についてお聞かせください。
コロナ禍で売上が減少したお店がある一方、好転しているお店も数多くあります。
特に住宅街にあるパティスリー・洋菓子店(主に個人店)が好転しています。非常事態宣言後の自粛期間中にちょっと贅沢しようとなると「町のケーキ屋さんへ行こう」となるわけです。
イートイン専門の店舗とは違い、ケーキやパンはテイクアウト出来ることが大きく、コロナ禍の影響はホテルやレストランに比べて小さかったと言えるでしょう。
また、個包装や営業時間の短縮、インターネット通販の導入などこれまでの販売方法や働き方を見直す機会にもなっています。
他の業界に比べるとまだまだですが、インターネット販売の普及は大幅に進みました。中には注文から2年待ちのクッキーやプリンなどもあります。
「美味しい」だけではなく、いかにかわいらしい箱で売るか、SNSでどのように発信するのかなど見せ方にもデザイン力やアイデアが求められるようになっています。
―製菓・製パンを専門学校で学ぶ意義についてお聞かせください。
例えば、製パンは発酵技術に難しさがあり、クロワッサンやデニッシュのような織り込み生地はさらに扱いが難しくなります。独学で技術を身につけるには相当な年数が必要です。
専門学校では基本から応用まで段階的に学び、業界で活躍できる技術と知識を身につけていきます。
製菓は小麦粉、バター、砂糖などの正確な計量方法やたくさんある器具の扱い方、「絞る」「塗る」「伸ばす」などの基本を繰り返し繰り返し行い自分の技術にしていきます。
一方で、こうした技術の習得はもちろん大切なのですが、この業界では「挨拶の徹底」や、「気配り・心配り」が必要不可欠です。
現場では、パティシエ、ブーランジェ、ウェイターなど、さまざまなスタッフとチームで仕事をしていきます。学生には技術面だけでなくスタッフとのコミュニケーションやお客様の接客なども指導していきます。
現場で〝育てがいがある〟と感じさせる人材になってほしい
―専門学校選びのポイントを教えてください。
「洋菓子」「和菓子」「製パン」が学科やコースで分かれており、それぞれに特化したカリキュラムを展開している学校もあれば、本校のように「製菓」と「製パン」を総合的に学んでいく学校もあります。
「洋菓子」のみを学ぶ学校(学科)であれば、生菓子、焼き菓子を中心にチョコレート、あめを扱ったり、授業ごとに専門教員が担う、洋菓子のみを深く学びたい、あるいは家業が洋菓子店といった人には良いかもしれません。
一方で「製菓」と「製パン」調理をバランスよく総合的に学べる学校は、卒業後の選択肢が広がり、この幅広い学びは将来的に起業を考えている人にも向いていると言えます。
思い描く将来像によって学校選びも変わります。
また、製菓衛生師の受験資格を得るためのカリキュラム(座学が多くなる)を取り入れている学校と製菓衛生師の資格取得は目指さず技術向上のための実習授業を多く組み込んでいる学校があります。
製菓衛生師の資格はその名の通り衛生に関する幅広い知識を持つ証明になるのも確かです。しかし、この資格を持っていないと就職できないというものではありません。
本校のパティシエ・ブーランジェ科を例にあげると、製菓衛生師の取得は目指さず、実習中心のカリキュラムを組んでいます。授業の9割が実習で年間960時間・320品の製菓・製パンを習得していきます。
どちらが良い悪いということではなく、各学校の考え方や方針ですので、高校生の皆さんが複数校のカリキュラム・時間割をしっかり比較することをおすすめします。
もちろん学校ごとに雰囲気も違い、皆さんとの相性もあります。学生の生の声を聞いてみたり、就職支援の内容で比較したりすることも必須です。
そのためにも複数の学校のオープンキャンパスに足を運び、ぜひ体験授業にも参加してみてください。
「学校選び」は「人選び」と言っても過言ではないでしょう。出来るだけ教職員や学生とコミュニケーションを取ることで、その学校の雰囲気を感じ取ってください。
可能であれば普段の授業を見るとその学校の本質がわかると思います。
―最後に、高校生へのメッセージをお願いします。
製菓・製パン企業で内定をもらう際に何を重視するのかといえば、「育てがいがある」と感じさせる謙虚さや素直さであり、お菓子やパンが好きだという気持ちの強さです。
好きで興味があれば行動も変わり、スキルも上がっていくものです。
みなさんが自分に合う学校にめぐりあい、製菓・製パン業界で力を発揮してくれることを期待しています。
製菓・製パン分野のポイント
1 資格と実践力のどちらを求めるか
製菓衛生師の受験資格も魅力だが、つくる技術を高めたいなら実習の充実度を重視したい。
2 1人での生産量には限度がありチームでの協働がメイン
製菓でも製パンでも、協調性が不可欠になる。
3 謙虚で素直な姿勢で学ぼう
就職後に習得する技術も多いため、常に学び続けていこうとする貪欲な姿勢が大切になる。
この質問に答えてくれた人
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東京調理製菓専門学校
山本 佳明 准教授
六本木ヒルズクラブでのパティシエをはじめ、製菓・製パンから調理まで幅広く20年の実践経験を積んだ後、学校法人食糧学院に入職。現在は、調理実習指導部の副部長と、パティシエ担当の主任を兼務する。