おいしさを追求した調理技術の習得だけでなく 販売促進に向けたビジネスセンスも磨こう!

調理師免許の取得という目的や、そのための基本的な学習内容は、多くの専門学校で共通している。とはいえ、各校に違いがあるからこそ、身につく知識や技術、意識、就職後の活躍方法にも違いが生まれるというもの。

そこで専門学校で身につけるべき調理師の資質などについて、東京誠心調理師専門学校を運営する学校法人誠心学園・広瀬道理事長にお話を聞いた。

食の安全・安心につながる衛生管理意識やコスト意識も重要

「調理ができる」は大前提 「いかに届けるか」という視点を持つことが大切

―まずは飲食業界の動向からお聞かせください。

飲食業界はコロナ禍で厳しい状況が続くなか、移動販売の実施やデリバリーサービスの活用、出張シェフサービスの導入など、新たな取り組みによって活路を見出そうと知恵を絞っています。

例えばデリバリーなら、大手飲食チェーンから個人店まで利用店舗が拡大しており、もはや実店舗でお客様の来店を待つだけでは不十分といえます。ニーズの変化に伴って、お客様への〝届け方〟自体が変化せざるをえないのです。

そうなれば、手元に届いたときに最もおいしいと感じてもらうための工夫も必要になるでしょう。「何ワットの電子レンジで何分何秒温めればシェフが想定したとおりの味になる」といった、家庭用調理機器との兼ね合いも考慮したメニュー開発のアイディアが求められます。

ただし、そもそもSNSなどを活用しながら効果的な情報発信ができなければ、デリバリーで注文を受けることも難しいはず。たとえ高価な料理でも、客層に合ったニーズに応えられれば注文は入りますので、アクション次第で売り上げを向上させることは可能です。

つまり、「いかにつくるか」だけではなく、「いかに売るか」「いかにお客様に届けるか」という思考回路を働かせられるか否かが経営を左右するということ。どんなにおいしいものをつくれても、食べてくれるお客様がいなければビジネスは成立しないのです。

SNSの活用方法のほか、原価率や利益率といったコスト意識を養うシミュレーション型の授業によって、専門学校時代からビジネス的なセンスを養っておくことが肝心です。

 

―調理師としての就職先についてお聞かせください。

飲食業界はファミリーレストランや居酒屋など、若者のアルバイト先としては身近だと思います。

ただし、知識も技術もないアルバイトスタッフには合理性・効率性が求められ、マニュアルに沿った作業がほとんどです。当然、メニューにない食事を提供することもありません。

一方、プロの料理人の世界は、お客様の満足度向上を最優先に考えるため、お客様に応じて味付けを変えることもあれば、メニューにない食事でも、要望があればなんとか提供しようとする世界。

その場にある食材と、磨き上げた技術によって柔軟に対応する醍醐味があります。ホテル内のフレンチレストランや、一等地に立つイタリアンレストラン、歴史ある日本料理店などが挙げられ、調理師を養成する専門学校で育成するのは、いうまでもなくこれらの店舗で活躍できる調理師です。

失敗作には必ず原因があり ミスを経験するからこそ 気づけることがある

―専門学校はどのように選ぶべきでしょうか?

調理師を養成する多くの専門学校は、校内にレストランを併設し、実習授業などに活用しています。

みなさんに見てもらいたいのは、調理の現場となる厨房やバックヤードです。厨房は使い込むほどに汚れていきますが、管理の行き届いた学校なら、たとえ歴史ある厨房でも清潔に保たれています。

調理師学校の主役は調理をする学生であり、学生の〝主戦場〟はホールではなく厨房。その厨房を清潔に保ち、堂々と見せられる学校かどうかは大きなポイントだと思います。

現場の衛生管理は、食の安心・安全を確保するための大前提。厨房の床や壁から一つひとつの道具まで、ものを大切にする教育が徹底されているか否かの物差しにもなります。

また、学校は「なぜ?」を紐解くために理論や技術を学ぶ場所です。正しい調理方法を習得するだけではなく、失敗のパターンも知識として身につけておくことが、将来に活きる貴重な引き出しになります。

人間である以上、ミスは起こってしまうものですが、専門学校で失敗のプロセスを体感し、学ぶ経験が、実社会で失敗を防ぐための準備の徹底につながり、迅速なリカバリーにもつながるのです。

だからこそ本校では、温度管理や切り方など、あえてセオリーに反する方法で調理し、その結果を実体験として学び取る授業も設置しています。学校選びでは、ぜひこうした具体的な授業内容にも目を向けてみることをおすすめします。

 

―高校時代から意識しておくべきことはありますか?

「調理師は楽しそう」という感覚だけでは、入学後や就職後に壁に直面する可能性もあります。

大切なことは、将来チャレンジしたいことを自問自答し、目的意識を持って専門学校に進むこと。確固たる意識があれば、壁を壁だと感じないかもしれませんし、壁を乗り越えること自体に楽しさを感じられるようにもなるはずです。

調理分野のポイント

1 調理+社会の流行を学べるか

新しい販売方法やSNSの活用など、流行に即した経営に役立つ学びがあるか。

2 衛生意識と食の安全・安心

学校の施設の清潔さを見る。技術以上に衛生面への意識が現場で評価される。

3 様々な体験ができるカリキュラムか

失敗を含め、専門学校で多くの体験をすることが料理人としてのスキルアップにつながる。

 

この質問に答えてくれた人

学校法人 誠心学園
広瀬 道(おさむ)理事長
東京ヒルトンホテル勤務後、学校法人誠心学園に入職。神奈川県専修学校各種学校協会副会長、全国製菓衛生師養成施設協会副会長、神奈川県洋菓子協会常務理事、内閣府6次産業化人材ワーキンググループメンバー
取材後記
「調理専門学校でオープンキッチンの施設を持っている学校は本校を含めてごく少数」という広瀬理事長のお話にこの学園が強くこだわる衛生意識へのプライドを感じた。調理の技術+「売る事」に加えて「お客様に料理を安全に美味しく届ける」という発想は、コロナ禍で飲食店の業態が大きく変わり宅配が大流行の当世でこそ、必ず持つべきだと確信した。
学校紹介

東京誠心調理師専門学校

東京都大田区蒲田3-21-4
TEL 03-3734-4411
https://www.seishingakuen.ac.jp/tokyo

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