調理師専門学校とは、「食」との向き合い方を学び、将来の可能性を広げる場所。

 

新宿調理師専門学校の特徴のひとつに「学僕」制度がある。
これは、昼間部の授業の補助をしながら、夜間部で学ぶ人材育成制度のこと。
在学中は学生寮で生活し、授業料減免と生活費の補助などが受けられる。
ひと昔前の住み込み修業のような生活を覚悟して応募してきた学生たちは、
どのような将来像を描いているのか?
厳しい環境を自ら選び、腕を磨く新宿調理師専門学校の
6人の学生たちに上神田梅雄校長が話を聞いた。

―保護者の学費負担を減らし働きながら学ぶ「学僕」制度

上神田梅雄校長(以下、校長)みんなが「学僕」制度を利用しようと思ったきっかけを改めて教えてもらえるかな。

鈴木健太さん(以下、鈴木健)私は山形県の庄内町出身で、高校2年生のときに家族旅行で東京に来たときに、新宿調理師専門学校のオープンキャンパスに参加しました。そこで話した先輩たちの印象がよくて、翌年もオープンキャンパスに参加したんです。その際に、「学僕」制度のことを聞いて、アルバイトをしながら通うより、朝から晩までみっちり学んだほうが自分に合っていると思って志願しました。

校長 そもそもなぜ調理師の道を?

鈴木健 父がカニ漁の漁船に乗っていて、まかない担当だったんです。料理をしている後ろ姿がかっこいいなと思って、自分の小学生の頃から母親と一緒に料理をしていました。

校長 父親に憧れたのか! それは知らなかった。じゃ順番に聞いていこうか。

鈴木悠太さん(以下、鈴木悠)はい。私は、福島県出身で、調理だけでなく、製菓・製パンも学べる東京の専門学校を探していました。それでネットで新宿調理師専門学校を調べていたときに、「学僕」制度を見つけて、学費も節約できるし、これはいいなと思ったんです。

新宿調理師専門学校の「学僕」制度とは?
学校で師匠と出会える現代の師弟制度
夜間部で学びながら、無償で昼間部の授業の補助業務を行う独自の人材育成システム。学生寮で生活しながら昼間部のサポート業務を行う代わりに、授業料が大幅に減額され、生活費も支給される。授業の補助業務を通じて、教職員と密な交流ができることもメリットで、社会に出て働くうえでの心構えも学ぶことができる

校長 オープンキャンパスも来たの?

鈴木悠 はい。他の学校の見学も行ったのですが、新宿調理師専門学校の先輩は、あいさつがしっかりしていたのが印象的で、自分に合っていると思いました。

高松龍之佑さん(以下、高松)私は父も新宿調理師専門学校出身で、さらに学僕生だったんです。それで、やってみれば? と勧められました。

校長 お父さんは、今どうしてるの?

高松 父は和食店を経営していて、いずれは私も後を継ぐつもりでいます。それもあって、せっかく東京で修業をするなら、厳しい環境がいいと思って、新宿調理師専門学校の「学僕」制度を選びました。母親も私が単身で東京に行くことを心配していましたが、先生との距離の近さを知って、今はすっかり安心しています。

校長 学僕生は、特に教職員との距離が近いよな。学校のスタッフと同じ立場で働いているからな(笑)。それは、実はとても貴重な経験なんだけどな。次は?

平野太一さん(以下、平野)私は伊豆大島の出身なんです。兄弟が4人いることもあって、高校卒業後は、就職しようと思っていました。そんなときに、高校の先生から新宿調理師専門学校のことを聞き、オープンキャンパスで「学僕」制度を知りました。

校長 オープンキャンパスに来たときは、どんな印象だった?

平野 正門を入った瞬間の引き締まった空気が印象的で、ここなら本格的に学べそうだと確信しました。「学僕」制度を利用すれば、親に迷惑もかからないし、自立できると考えました。

校長 料理人をめざした理由はあるの?

平野 はい。私の地元は、過疎化の影響もあって、料理を出す店が少ないんです。なので、地元の食材を使った料理店をやってみたいと思っています。祖父が漁師なので、新鮮な海鮮素材も手に入ります。

―和・洋・中から製菓まで 幅広く学べるのが専門学校

川本望弥さん(以下、川本):私の場合は、調理師になりたいというのは決めていたんですが、少々優柔不断な性格で……。そこで、和・洋・中、カクテル、製菓まで幅広く学んでから、将来の道を決めたいと思って、各分野の専門の先生がいる新宿調理師専門学校を選びました。

校長 オープンキャンパスは来たの?

川本 はい。そのときに校長先生による調理のデモンストレーションを見て、指導の言葉がすごく響いたんです。「一瞬一瞬を大事にしろ!」って言われて……。
それで、こんな校長がいる学校で学びたいと思って、入学を決めました。そのとき、「学僕」制度のことを知って、寮生活なら千葉の実家から片道2時間かけて通う無駄な時間がなくなると思って、志願しました。

伊部裕哉さん(以下、伊部)私の場合は、学僕生の先輩が授業の一環で高校に来てくれて、そこで「調理師をめざしている」と言ったら、「学僕」制度をすすめられたんです。そこで、高校3年の夏休みにオープンキャンパスに参加して、改めてここで学ぼうと決めました。そのときの学僕生の先輩の影響が大きいですね。

校長 調理師になろうと思ったきっかけは?

伊部 親が料理をする姿に憧れて、小学校くらいから調理師になろうと思っていました。うちも平野くんと一緒で4人兄弟だったので、金銭面で親に負担をかけたくないと思ったのが、「学僕」制度を選んだ決め手ですね。

調理師本科/夜間部 2年 伊部裕哉さん

―何度も反復することで 見えてくるものがある

校長 みんなも知っていると思うけど、私もこの学校で学僕生として学びました。江戸時代なんかは、何かを志す者は、自ら先生を求めて塾に入ったんだ。吉田松陰の松下村塾とか。

「学僕」制度というのは、そういうものが原型だと思っていて、やはり「自ら学ぶ姿勢」というのが大事。私は料理に興味があったけど、どこで何を学んでいいかもわからなくて、学僕生は夜間の授業で学びながら、昼も先生の手伝いができると聞いて、ワクワクしたんだよ。学び場でもあり、最初の職場がここだと思っていたから。

在学した547日間、1日も休まずに出席して、土日は日本橋高島屋のレストランでアルバイト。振り返ると、ひたすら料理と向き合って、あらゆることを吸収した学生時代だったよ。みんなは、学僕生になるメリットをどんなところに感じている?

伊部 オープンキャンパスのようなイベントの際には、学僕生は先生と一緒になって準備をするんです。そのときに、先生が授業ではやらないような仕込みの細かい技を見せてくれたりするのがうれしいですね。それをすぐ横で見て、質問もできるって貴重な時間だと思います。

高松 授業やイベントの手伝いなどを通して、夜間の授業で習った仕込みの手順を何度も反復してやることができるので、どんどん身についている実感があります。自分は本当に覚えるのが苦手なのですが、先生が根気よく丁寧に教えてくださるので、本当にありがたいです。

校長 反復できると一度見ただけでは、ものは覚えられないことが理解できる。しっかり大人の階段を登っているね。

鈴木悠 授業のサポートを通して、先生や師範のみなさんが交わしている「この作業やさしいね」という言葉が印象に残っています。食器を洗いやすいように水につけておいたりする小さいことの積み重ねですが、相手が喜ぶやり方を心がけることって、この先どんな仕事をしても役立つと思っています。

調理師本科/夜間部 1年 髙松龍之佑さん

―「真っ白なキャンバス」の若者に 確かな技術と心構えを教える

調理師本科/夜間部 1年 鈴木悠太さん

鈴木健 私は新宿調理師専門学校に入って、日々の元気なあいさつを心がけているんです。たったそれだけのことが、外部のホテル研修に行ったときに、ものすごく評価されて、普段の心がけがこういうところにつながるんだって実感しました。

校長 仕事には必ず人の心が表れる。やらされ作業としてやるか、仕事として自発的にやるか。その意識をここで学んでほしい。私は調理師にならなくても社会に出て役立つものをここで学んでほしいと思っているからね。

そもそも調理師免許というのは、専門学校に行かなくても取れるのは、みんなも知ってるよな。じゃ2年も専門学校で学ぶ意味って何だろうか? それは、食との向き合い方を学ぶことだと思ってる。私たちの仕事は、調理は命と直結する大事な仕事だと理解してもらうこと。

「真っ白なキャンバス」である若者たちに、しっかりとした技術と心構えを身につけさせることで、その後の職業選択も間違いがなくなる。あと、手に職を付けるのは、やはり早ければ早いほどいい。

川本 私は迷いながら、和・洋・中とひと通り学んで、最終的に就職では製パンの道を選びました。自分で納得のいく選択ができたと思っています。

伊部 私は、入学当初ホテルの料理長をめざしていましたが、今は後輩ができて、指導するなかで、オーナーシェフとして後進を育てるような働き方にも興味が出てきています。

―仕事には人の心が表れる その意識を学んでほしい

校長 有名な三ツ星レストランで働く……みたいな肩書きだけの目標じゃなくて、自分が何をしたいのか、食とどう向き合いたいのか、そういうことがわかったとき、本当の卒業だといえると思う。調理師にとって、最初に出会う人の影響力はとてつもなく大きい。だからどこで修業をしたのかっていうのが本当に重要になる。

一方で、高校を卒業して、「真っ白なキャンバス」のままじゃ、まともな就職先は選べないよな。だから専門学校ってのは、師匠と呼べる人間との出会いの場でもあって、その人から「ここなら大丈夫」という就職先を紹介してもらえることも大きな価値だと思う。現に、新宿調理師専門学校には、学生数の50倍の求人が毎年集まるわけだけど、うちの大事な卒業生をただの作業員だと思っているような会社には渡さないつもりだよ。

鈴木健 私は地元で料理店を出して、地元の人に恩返しがしたいと思っています。自分の店が島外からもお客さんを呼べるようになったら、地元に仕事ができますからね。それが目標です。

校長 初志貫徹していて、立派な目標だと思う。1年生のみんなは、そろそろ将来のことを考えたりしているのかな?

鈴木悠 実家の民宿で料理を出すのが目標でしたが、学僕生として先生と接するうちに、自分も後輩を指導するような仕事に憧れるようになってきました。

調理師本科/夜間部 1年 鈴木悠太さん

鈴木健 私は和か洋かで迷っていたんですが、最近はむしろバーテンダーという職業に強く憧れていて、まだまだ模索中という感じです。お酒が好きな父親は賛成してくれてますが(笑)。

校長 調理師として携わる仕事は、50以上あると言われている。そのすべての可能性を見せてあげることも専門学校の使命だと私は思っているんだ。やりたいことは変わって当たり前。二十歳前後の大事なこの時期に、大いに迷えばいいと思うな。

高松 私は実家の和食店を継ぐつもりですが、学校のアクティビティで地域活性化のイベントに参加して、地元を活性化させるような仕事にも挑戦したいと思い始めています。学僕生として、教職員の方といろいろなプログラムに参加できることで、視野が広がっています。

―「働く」とは人の役に立ち、 喜ばれる人間になること

校長 「はたらく」っていうのは、「ほかの人(=はた)」が「らく」になる動きのことだと思っていて……。生ゴミのポリバケツをきれいにしておくと、周りの仲間が気持ちよく仕事できるよな? 誰に頼まれなくてもそういう働きができる人が本当のプロなんだ。「働く」ってのは、人の役に立ち、喜ばれる人間になること。高松くんは、学僕生として、しっかり周りを見ているようだね。

高松 ほかに一流の料理人になるために大切なことはありますか?

校長 思い上がらないこと。天職は与えられるものじゃない。やり続けて気づくものなんだ。凡事こそおろそかにしない、継続する力は大事だろうな。みんなは、新宿調理師専門学校で得たものは何だと思う?

伊部 人として成長できたと思います。小さいことだと自分からあいさつができるようになったし、後片付けなども仲間のことを考えながらできるようになりましたね。

調理師本科/夜間部2年 川本望弥さん

川本 細かい点ですが、学僕生として、先生のすぐ近くで仕事を学んだことで、相手に本当に必要な手伝いってどういうものなのか考えられるようになりました。

平野 私は先生や学僕生の仲間との縁ができたことですね。また、被災地訪問などの社会活動も経験できて、社会に対して自分に何ができるのか考えるようになったと思います。

校長 1年生のみんなはどう?

高松 飲食業界の仕事の厳しさを教えてもらっています。お客さまに出す料理の本気度、熱量を先生から教わっています。

鈴木悠 先生たちと近い距離で接することで、仕事の手順には理由があることなどを学んでいますね。

鈴木健 私も先生たちとの会話の中で常に視野が広がっています。自分はこうだけど、みんなはどうだろうかと考えるのが楽しいです。

校長 学僕生に限らず、ここで真剣に学び、実践を繰り返した人だけが与えられる「気づき」が必ずあると思う。飲食業だけでなく、どこの世界でも通用する人間を育てるのが、新宿調理師専門学校の使命だと私は思っています。

取材後記
学僕生たちは、上神田校長が学生たちに期待する「調理師としての心構え」を具現化した理想像のように見える。目的意識をしっかりと持った学生たちの目力と、慈父のように見守る校長に師弟の絆を見た。【SINRO! 編集長 河村卓朗】
学校紹介

新宿調理師専門学校
調理師専修科 2年制
調理師本科昼間部 1年制
調理師本科夜間部 2年制
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