栄養士・管理栄養士の進路の違いと 専門学校だからこそ得られる資格以外の力とは

現在、多くの人の食に対する興味は“安全・安心”に加えて“健康”や“体にいい”ものにまで広がっている。給食などで衛生管理と大量調理を担う栄養士、更に高度な知識と技術が必要となり、医療の領域まで範囲が広がる管理栄養士の仕事と学びについて、東京栄養食糧専門学校の金澤敏文先生にお話をうかがった。

栄養の知識+「人・モノ・お金」のマネジメント力も身につけたい

栄養士・管理栄養士の存在意義と売り手市場の就職事情

—栄養士や管理栄養士という資格を取得するとどのような進路があるのか、業界の現状も含めて教えてください

人は食べないと生きていけません。毎日の食事で美味しいと満足するだけではなく、身体によく安全な食物を適量分摂取する意識を持てば病気になる確率も下がりますよね。栄養士や管理栄養士の役割は、人々が正しい食生活を送れるように導いていくことにあると思います。

栄養士、管理栄養士の進路は大きく二分すると、献立や栄養管理を考えて食事を作る職種と食習慣の指導など、人の身体の状態を診る職種に分けられます。

食事を作る職種では、科学的裏付け「エビデンス」をもとに健康を維持できる献立を作る、実際に調理をする、学校や保育園、企業の社員食堂などで働く「給食管理」が代表的です。端的にいえば「給食」は大勢の人たちが食べますのでその質が上がれば日本中の健康レベルが上がるとも言えるでしょう。

もうひとつは高齢者福祉施設や介護施設、病院など、食事を体に採り入れる側の状態が正しく機能しているかどうか、その人の状態を見極めつつ食生活や栄養の観点から献立作りや栄養指導までを行う仕事です。ドラッグストアでのサプリメントの指導なども最近、ニーズが高まっています。

これらの職種は就労人口が減ってきていて、深刻な人手不足です。つまり資格を持っている学生側からしたら引く手あまた、売り手市場といえます。企業側も最近の若者が休暇を重視することを理解して就業規則の改定や福利厚生に力を入れるところが増えています。

栄養士と管理栄養士の資格の違いと得られる仕事の違い

—栄養士と管理栄養士では就職先も変わってきますか?

そうですね。栄養士は栄養価と量を考えて衛生的においしく食事を作っていく仕事といえます。就職先としては先ほども述べた、給食関連の仕事が多いです。

管理栄養士は栄養士と同じく給食関連に進む人が多いですが、病院など医療に携わる分野で働く人の数が多いという点が栄養士の進路と大きく異なります。疾病や、摂食障害を持った人の体質改善や栄養指導など、より具体的な幅広い知識を持って人の健康を支える仕事が多く、更に管理栄養士は栄養指導をすると診療報酬や介護報酬を受け取れるという点が大きな特長です。

また、栄養士として学ぶ過程で専門分野への興味が広がり4年制の管理栄養士科へ転科する学生も本校を例とすると少なくありません。

いずれにしても求められる素質としては「優しさ」や「人のために何かがしたい」という気持ちがあるということだと思います。

大学と専門学校の学びの差と専門学校を選ぶポイント

—大学と専門学校で学びの違いはあるのでしょうか?

カリキュラムの内容でいうと、大学には一般教養などがあり、学ぶことが幅広いです。就職先も資格を生かしたもののほか、一般企業も多いというデータがあります。

一方専門学校は栄養のこと、人の体のこと、食べ物のことについて集中的に学びます。就職先も栄養分野や、管理栄養士が活躍する医療関係などが主です。

本校もそうですが、業界に強いネットワークを持つ学校が多いですね。即戦力として社会に出てもらえるように指導しているので、目的がはっきりしている高校生は専門学校で濃厚な授業を受けて学んだ方がいいと思います。

—専門学校を選ぶときはどこに着目したらいいでしょうか。

基本的には各校とも厚労省の指定カリキュラムを遵守しますので学びの内容は近いですが、それ以外の2〜3割の部分で学校の特色が出ています。

現場を良く知る専門の講師を揃え、少子化や健康志向などの社会的なニーズに柔軟に沿った学びができる学校は情報の感度が高いと思います。本校では今年4月に低エネルギーや低アレルゲンのお菓子作りを学ぶ、健康スイーツ研究科を開講予定です。

他にも調理実習の時間や大量調理の食数が他校と比べて明らかに多いという特色を持つ学校もあります。漠然としていてもよいのでどんな仕事をやりたいかということを考えて、学校を探すのがいいのではないでしょうか。

—この資格を目指す高校生はどのような心構えが必要ですか。

食事、栄養に興味があることは大前提ですが、栄養士・管理栄養士の仕事は食事だけを考えるのではなく、人とコミュニケーションをとることも重要な業務です。経験がないことでも興味を持っていれば共感できる話題は増えます。自分が習得した知識をもとに話せば相手も信頼してくれますし、その人の魅力となります。

また、周囲に流されず「なぜこうなるのか」という疑問を常に持つことも自らの能力を高める上で必要な要素です。

栄養分野のポイント

1 栄養士と管理栄養士で出来る事の違いを理解する

栄養価を考えた食事作りは栄養士でできる。医療・介護の分野で活躍したければ管理栄養士。

2 向き合うのは「食事」ではなく「人」

求められる素質は「優しさ」「気配り」「人のために何かがしたい」という気持ち。

3 食事と栄養以外の能力も求められる

栄養だけでなく、人・物・お金を管理・運営する力も求められる。

この質問に答えてくれた人

東京栄養食糧専門学校
調理実習指導部 部長
金澤 敏文先生
平成16年3月 学校法人食糧学院東京栄養食糧専門学校栄養士科卒業。企業勤務を経て平成23年7月より学校法人食糧学院入職。平成31年より東京栄養食糧専門学校調理実習指導部部長。現在に至る。
取材後記
金澤先生のお話はとにかく具体的かつ分かりやすかった。特に「知識を活かして安くて良い食材を選ぶコスト感覚も大事」というお話は、ご自身が大学で経済を学び、専門学校で栄養士を取り料理業界に就職し、専門調理師免許を取り、更には病院勤務で管理栄養士まで取った実体験の裏打ちがあってこそ。「管理栄養士は絶対に学校で取る方が良いと思う」というお話は、先生のご苦労がにじみ出て説得力があった。
学校紹介
東京栄養食糧専門学校
東京都世田谷区池尻2-23-11
TEL 03-3424-9113
http://www.dietitian.ac.jp/