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出汁と米、おもてなしの文化―和食の「原点」から広がる食の世界
学校法人水野学園が運営する東京すし和食調理専門学校は、2016年に開校した、「和食」に絞った唯一の認可専門学校だ。
世界基準で注目を集めるすし、和食の担い手を育てる同校の教育方針について、渡辺 勝校長にお話を伺った。
文化性の高い和食を徹底的に根本から学ぶ
―はじめに貴学園が調理専門学校を設立するに至った経緯をお聞かせください。
水野学園の教育の根幹にあるのは、手づくりで人が身につけるモノを手がける職人の養成です。これまでにも、ジュエリーや靴、バッグ、時計、自転車といった、あるアイテムに特化したモノづくりの教育に力を入れてきました。
本校もその流れを受け、「すし」、「和食」に限定しています。和食は海外でもニーズがありながら進路として選ぶ人が少ない人材不足の問題があります。
和洋中を幅広く学ぶのではなく和食だけを専門的に学ぶことで、就職後も自信をもって活躍することができる。業界の離職率低下にもつながるよう、人材育成に取り組んでいます。
―世界的に注目を集める「和食」の位置付け・可能性について教えてください。
日本に来る観光客の多くは和食を求めてきますよね。同時に私たちの使命としては、「本物の和食」を海外の人に知ってもらいたいという思いがあります。
海外にある日本料理店はその体を成していないものもありますが、それは「和食」の本質が捉えきれていないからではないでしょうか。
和食というのは、出汁の文化と米を味わう文化、そしてお客さまにおもてなしをする文化だと考えています。ヘルシーなイメージ、食べやすさ、見た目、旬の食材を使った季節感といったものも、和食特有の文化です。
その意識を携えたうえで献立を考え、お客さまに料理のコンセプトを伝えていかなければなりません。和食は非常に文化性が高く、その背景を学んでおく必要があるのです。
本校の「和食調理科」(2年制)と「和食研究科」(3年制)のカリキュラムは、そうした考えを強く反映したものです。
1年次には「五味・五色・五法」や、「素材の味を生かす」といった和食調理の原点について考えながら一汁三菜の調理実習に徹底的に取り組み、2年次には旬の食材を使った季節感のある懐石料理やすしの調理を学びます。
3年制ではさらに、独立開業のノウハウを学ぶ「料理店舗実習」や、「華道」「茶道」「書道」を学び料理人としての奥深さを身につける「和食文化研究」といった授業を用意しています。
本校の学びを通して一気通貫でさまざまな和食づくりに必要な体験をしてもらうことで、深みのある和食の世界の全体像がわかる貴重な人材を育てるのが狙いとしてあります。
五味 | 「甘味・辛味・塩味・苦味・酸味」という5つの味のこと。 |
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五色 | 調理や盛り付けの際に重視される5つの色のこと。「赤・青・黄・白・黒」。 |
五法 | 「焼く・煮る・蒸す・揚げる・生」といった5つの調理法のこと。 |
「本物の和食」を学ぶための豊富な調理実習と味覚研究
―他校との違いや、特長的な学びについてさらに詳しくお聞かせください。
本校では、「銀座小十」の主人・奥田透氏を教育顧問として迎え、校内の実習スペースにその店舗の厨房・カウンターを再現するなど、第一線で活躍する一流の講師と環境を整えています。
和菓子から日本酒、昆布、器や包丁まで、すべて全国の一流品を用い、時にはその職人たちを特別講師として招いています。
そうした「本物」を知ってもらうのに加え、「わかる」「やったことがある」ではなく、技術的に「できる」まで持っていくのが私たちの役割だと思っています。
「桂むき」(大根を薄くむく技法)を例に挙げれば、本校では長さや薄さといった数値を定めて、合格するまで続けてもらいます。一般の調理系専門学校和食学科に比べて2年間で約2・5倍の時間を調理実習に充てることで、確実に「できる」に到達する指導を行っているのです。
和食ならではの薄味を感知できるよう訓練する「味覚研究」の授業にも力を入れています。五味の識別や食材と調味料の味について研究するなかで、最終的にレシピなしで教員がつくった味の再現をすることを目標とします。
入学したての学生は濃い味付けの生活に慣れている人が多いのですが、食べものの味を感じる味蕾(みらい)は2週間で再生するので、意識的に訓練すれば必ず味覚は成長します。
料理店に限らず、食に関わる多様な出口が広がっている
―高校卒業後に飲食店に飛び込むのではなく、専門学校で学ぶことの利点はどういったところにあるでしょうか?
例えば、「すし」の場合は、「握り方」を数か月でマスターできるというトレーニング校もあります。しかし、お客さまの前ですしを握る時間というのは寿司屋の業務全体の実は5%ほどでしかないのです。95%は目利きと仕込みの時間なのです。
一つひとつ確かな食材や米を選び、塩で揉む、昆布締めにするなど、多様な下ごしらえをする必要がある。米と魚というシンプルな料理であるがゆえに、とても奥深いものがあるのです。
また、和食の職人は十人十色なので、店ごとにルールがあります。高校卒業後にひとつの店で修業して多くを学んでも、他の店で通用するとは限りません。
その点、学校で基本のセオリーを体型的に学んでいれば、どこにいってもゼロからその店のルール、職人の技を吸収していくことができると考えています。
難しく感じるかもしれませんが、和食は懐石料理のような特別なものだけを指すわけではありません。幼いころに食べたおかゆや親が握ってくれたおにぎりといった身近なところに、私たちの生活に根ざしてきた和食の原点があると思います。
季節を感じながら美味しいものを食べて健康になる。日本人らしい生き方の根本にあるその精神にいま一度注目し、その喜びを仕事につなげてほしいですね。
料理の根本を深く学べば、就職先は料理店だけに限らず、料理人と通訳なしでメニュー開発に携わるフードコーディネーターや、酒づくりや米づくりの職人になるといった多様な出口があると思っています。
「手」を用いたモノづくりに定評がある、水野学園らしい和食を徹底的に深掘りして学ぶ同校の姿勢はもっと知られるべき。
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