生成AIなどのデジタルツールが注目される昨今、デザインの大きなトレンドの波は不明瞭で、スタンダードなアイテムが人気を集める傾向にある。
また、環境配慮型のデザインにもますます注目が集まる。そんな今こそ、「デザインに求められるのはコミュニケーション」と桑沢デザイン研究所の奥山大介先生は語る。
デザインの学びと将来の進路について、最新の動向を聞いた。
相手を理解して発信できるデザイナーが求められる時代へ
環境配慮型のモノづくりにますます注目が集まる
―奥山先生は、デザイン業界の現状をどうご覧になっていますか?
私の専門であるファッションデザイン分野については、毎年のトレンドが読めない状況になっているのを感じます。
私が業界で仕事を始めた、2000年代とはまったく異なる状況です。背景には、ZARAやユニクロに代表されるファストファッションブランドのレベルが上がっている現状があります。デザインも素材も20年前と比較すると各段によくなり、もはや高いブランドの服を買う理由を探すのが難しい。
また、上位ブランドもベーシック寄りのデザインが人気で、「ブランドらしさ」を残しながらも個性を出しすぎないアイテムがユーザーに受け入れられている傾向を感じます。
デザイン業界全体としては、地球にやさしい材料や持続可能な方法を用いた環境配慮型のモノづくりにますます注目が集まっています。ファッション業界でもリサイクル素材を使ったり、人権に配慮した生産工程にこだわったりする企業が注目されています。
技術の進歩によって、「形のないもの」、つまりそのブランドのストーリーを消費するユーザーが増えていると思います。
この点において、デザイン業界ではますますコミュニケーションの要素が重要になっています。自分の理想をただ発信するのではなく、作品を受け取る相手を理解して、アウトプットできるデザイナーが求められています。
また、商品を企画するうえでは、「売れるかどうか」も重要です。ユーザーの購買ニーズに応える「マーケット感覚」が求められます。担当するファッションデザインの授業でもこの大切さを教えています。
―デザインの専門学校では、具体的に何を学べるのでしょうか?
桑沢デザイン研究所では、①ビジュアル②プロダクト③スペース④ファッションの4分野で学びます。①は広告、雑誌、Web、商品パッケージなどのデザイン、②は家電や雑貨など製品のデザイン、③は建築、インテリア、家具などのデザイン、④は服飾系のデザインです。
各分野で学べるのは、絵を描く、モノをつくるといった技術だけではありません。手を動かして生み出した作品によって、社会に新しい何かを提案する方法も学んでいきます。
桑沢デザイン研究所の昼間部では、1年次の「基礎造形」「基礎デザイン」の授業で、手を動かしながら素材や造形と徹底的に向き合い、デザインの基礎を学んでいきます。
その後、各分野に分かれて、専門的な知識・技術を身につけていきます。
例えば、ファッションデザイン専攻では大きく分けて、①デザイン②パターン(型紙)・縫製③服飾史などの講義の授業があります。
「ファッション・ドローイング」の授業で8等身のデザイン画を描き、「トータルメーキング」の授業で縫製にも挑戦します。「ファッションデザイン・リサーチ」の授業では、学生各自が著名デザイナーの書籍などを調べて、ブランドの背景を学んでいきます。服飾史を知ることで、自らのデザインを説明する際の説得力が生まれます。
―デザインを学ぶ際、大学と専門学校の違いはありますか?
一般論としては、大学は学問の修得を目指し、専門学校は職能の体得を目指す場所と考えられています。大学は幅広い教養を身につけながら学べるのに対し、専門学校はスピード重視で現場の即戦力を目指す学びを展開しています。
ただ、専門学校の教育内容もさまざまです。例えば、桑沢デザイン研究所では、理論系科目にもかなり力を入れています。志望する専門学校のカリキュラムを見て、学びの傾向をつかんでおくのがいいでしょう。
実際に学校を訪れて空気感を知ることが大切
―デザイン系の専門学校を選ぶ際は、どのような点をチェックすべきでしょう?
学校のロケーションや知名度など、さまざまな要素があると思いますが、やはり現地を訪れて、その場の空気を感じてみるのが重要です。学校説明会や作品展を訪れて、学生の作品や卒業生の話を聞くと、その学校の雰囲気がよくわかります。
また、卒業生がどのような業界・企業で働いているかも要チェックです。志望する業界とのつながりが強い学校に行けば、就職の可能性も高まります。
―デザイン系専門学校を卒業した後の進路について教えてください。
卒業後は、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、インテリアデザイナー、ファッションデザイナーなど、さまざまな専門職を目指すことができます。デザイン会社や広告代理店、メーカー系企業など就職先も多彩です。
ただし、ファッション業界に関しては、有名ブランドのデザイナーは中途採用が一般的です。新卒の場合は、販売職からスタートするケースが多いですね。
また、OEM(※)企業でファッションデザイナーの経験を積んでから転職する道もあります。
ファッション業界に限らず、今のデザイナーは転職しながら、スキルを上げていくのが一般的です。
※OEM=Original Equipment Manufacturingの略。他社ブランドの製品を製造することを指す。
―最後にデザインに興味がある高校生と保護者にメッセージを。
デザインとは、よりよい未来をつくる活動です。
そのためには、受け取る相手とのコミュニケーションが不可欠です。高校時代から自分の思いを言葉で伝える経験をしておくことが重要です。
また、日常生活に興味や疑問を持つ視点も大切です。普段使っているモノに対して、「もっとこうだったらいいのに」と思う気持ちがデザインの原点なのです。
デザイン分野のポイント
1 学校を訪れて場の空気感を知る
学校説明会や作品展を訪れ、現場の雰囲気や学生の作品を見て、自分に合っているか判断する。
2 志望校のカリキュラムを調べる
実習優先なのか、講義科目が多いのかなど、カリキュラムを調べると学びの傾向がわかる。
3 業界の卒業生ネットワークを見る
クリエイティブ業界で働く卒業生が多い学校を選べば、ネットワークの一員になれる可能性が高まる。
この質問に答えてくれた人

→『進路の広場』で専門学校 桑沢デザイン研究所を見る
専門学校 桑沢デザイン研究所
ファッションデザイン分野
奥山 大介 先生
神戸文化短期大学卒業後、渡英。CentralSaint Martins MA Fashion Womenswear 修了。2006年帰国後は、ブランドやセレクトショップの商品企画・アートディレクション、量販店の新規事業への参加などアパレル勤務を経て、2022年より現職。