生成AIが登場し、社会のデジタル化が加速するなか、デザインが担う領域も変化しつつある。従来の家具や紙媒体のデザインに加え、Webサイトやゲームアプリなどサービスの“体験”をデザインする仕事も増えているという。
「デザインとは社会と人をつなぐもの」と語る桑沢デザイン研究所の本田圭吾先生に、デザインの学びの最新動向について伺った。
今後、さまざまな領域で求められる「デザイン力」の本質とは?
単に「作る人」ではなく、AIとともに「創る人」へ
―AIの台頭でデザイン業界でも変化を感じることはありますか?
AI技術の急速な進展によって、デザインの実務は確かに大きく変化しています。デザインに取り組むために必要な調査、試作検討の初期段階の実務など、人間が時間をかけて行ってきた作業の一部はAIによって代替されつつあります。
ただ、AIが登場する以前からPhotoshopやIllustratorなどのデザインソフトや3Dプリンターに代表されるデジタル工作機器は存在し、誰でもデザイナーになれる時代は到来していました。それでもデザイナーという職業は残ってきた。そこにAIでは代替しにくい、人間に残された領域があると思っています。
今後、デザイナーに求められるのは以下のような力だと考えます。
- 社会や人の状況を読み取る力
- 問題そのものを見つけ、問いを立て直す力
- 技術・素材・文化・感情などを横断して統合する力
- つくる理由や意味を言語化し、共有する力
これらは総じて、人間性をもって「考える力」「判断する力」と考えていいと思います。決められたものを大量につくる作業はAIに代替されていくでしょう。「なぜそれをつくるのか?」「なぜそれが必要なのか?」を人間として構想する力がますます求められるようになります。これからのデザイナーは、単に「作る人」ではなく、「創る人」としてAIを活用しながら、社会と人をつなぐ役割を担っていくことになるでしょう。
―デザインの専門学校では、具体的に何を学べるのでしょう?
桑沢デザイン研究所では、デザインの分野を①ビジュアル ②プロダクト ③スペース ④ファッションの4つに分けています。
①は広告、雑誌や商品パッケージなどのデザインやWebデザイン、②は家電や家具など製品のデザイン、③は空間やインテリアデザイン、④は服飾系デザインとなります。
私が担当するプロダクトデザインの領域では、主に日用品、住宅設備、家具、玩具、デジタルデバイスなど、人の生活や社会と密接に関わる「モノ」を通してデザインを学びます。近年、プロダクトデザインという言葉は、UI/UX(※)、アプリの体験設計などの領域で使われることも増えています。そこで次のように概念的に役割を分けて理解するのが一般的になっています。
- フィジカルプロダクトデザイン=モノを通して社会と人をつなぐ設計
- サービスプロダクトデザイン=体験を通して社会と人をつなぐ設計
「社会と人をどうつなぐか」という共通の問いを持つ両者を設計思想の制約条件を明確に分けて学び、統合して提案する力を「プロダクトデザイン力」として養成しています。
※UI/UX=ユーザーインターフェース/ユーザーエキスペリエンスの略。Webサイトやスマホアプリなどデジタルツールの体験価値を最適化することを指す。
―デザインを学ぶ際、大学と専門学校の違いはありますか?
一般的に大学では、理論や研究、幅広い教養を背景に、時間をかけてデザイン思考を深める学びが中心になります。一方、専門学校では、実習・制作の比重が高く、現場を想定した課題設定が多くなります。企業との距離も近いことから、職業としてデザイン力を身につけることに重点が置かれています。特に短期間で集中的に手を動かして、「考えて、つくって、伝える」経験を積む点が専門学校の強みではないでしょうか。
特定の「企業」ではなく、「領域」で未来像を描く
―デザイン専門学校を比較する上でチェックすべきポイントとは?
やはりカリキュラムは重要です。自分が所属したい領域における課題やサステナビリティなど時代性が反映されているか、基礎から応用まで段階的に学べる構成になっているかなどをチェックしたいところです。
また実習設備も要チェックです。主体的に制作を進めやすい環境が整っているか入学前に訪問して体験しておきましょう。これは各専門学校の学園祭や卒業作品展を訪れるのが王道です。さらに、現場経験のある教員が指導しているか、企業課題や外部発表への参加機会があるかも確認しましょう。在校生のデザインコンペの入賞率も参考になるでしょう。
―卒業後に想定される就職先について教えてください。
デザイン専門学校卒業後は、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、インテリアデザイナーなど、さまざまな職業を目指すことができます。ただ、これからの就職先は特定の「企業」ではなく、「領域」を想定すべきです。これはその企業がどの業種・業界で、どのような業態のビジネスをしているかを捉えたものです。
例えば、自動車のデザイナーになりたいと思っても現場では、インテリアから付属のアプリ設計まで任される時代です。現在は業界を問わずさまざまな「領域」でデザイナーが求められています。つまり、所属したい「領域」をよく知ることで、デザインの力を活かすチャンスは無限に広がるのです。
―最後にデザインに興味がある高校生にメッセージを!
デザイナーを目指すなら、身のまわりのモノや仕組みに「なぜ?」と疑問を持つ習慣を心がけてください。そのためには街を出て、人やモノを観察する習慣も必要です。その上で、何かモノをつくり、それを言葉で表現する経験を積んでください。
身近なことで構いません。リアルで直接的な身体経験の積み重ねが、デザインを学ぶ上での土台になり、入学後の「考えて、つくって、伝える」活動に大きく役立つでしょう。
デザイン分野のポイント
1 授業や実習の内容をチェック
基礎から応用まで段階的に学べるカリキュラムか。目指す領域における課題やトレンドが反映されているか。
2 主体的に制作ができる環境があるか
実習設備や自由に制作ができる雰囲気があるかも要チェック。学園祭や卒業作品展で現場を訪れてみよう。
3 教員や外部とのネットワーク
現場経験のある教員が指導しているか、企業課題や外部発表への参加機会があるかを確認しよう。学生のデザインコンペ入賞率も外部との交流の指針になる。
この質問に答えてくれた人

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専門学校 桑沢デザイン研究所







専門学校 桑沢デザイン研究所
プロダクトデザイン分野
本田 圭吾 先生
東京造形大学卒業。スノーピークを経て、現職。サステナブルデザイン、エコデザインをベースにデザイン教育に携わる。スノーピーク「テイクチェア」などでグッドデザイン賞ほか受賞多数。JIDAエコデザイン研究会代表、東京造形大学非常勤講師。