機械化が進む新時代の飲食業界で「人間」に求められるスキルとは?

調理現場の機械化が進む飲食業界では、調理師に求められる資質も二極化しているという。機械を駆使して効率化を推進するか、小規模店で独創性を極めるか——。

調理師を目指す若者たちは今、何を学び、どのようなスキルを身につけるべきか。東京誠心調理師専門学校を運営する学校法人誠心学園広瀬道理事長に話を伺った。

必要なのは変化する調理の現場で何をすべきか「考える力」

専門学校は学生に多くの選択肢を提供する時代へ

―人手不足が何かとクローズアップされる飲食業界ですが、現場の状況をどうご覧になっていますか?

コロナ禍で急激に採用を控えたレストランやホテルに顧客が戻り、人手不足がますます深刻化しています。ただ、労働力人口が減少している日本で、外食産業を支える人材が不足するのはコロナ禍前から明らかでした。

大手ホテルやレストランは、とにかくいい人材を早めに確保したいと思っています。そのため、飲食業界の待遇は大幅に改善されてきています。今や調理師も、残業なし休みも取りやすい職場を探すことが十分に可能になりました。

一方で、人材不足によって、調理の現場では、機械に頼る領域がますます増えています。これからの外食産業で活躍するならば、「人」でなければできないことは何かを深く考える必要があるでしょう。

―現場のニーズが変わるなかで、調理師を養成する専門学校で何を学ぶべきでしょうか?

専門学校は、ますます学生ごとにカスタマイズされた教育を提供するようになるでしょう。

例えば、私が運営に携わる東京誠心調理師専門学校では、入学してから飲食業界で働くための幅広い体験ができるカリキュラムを用意しています。2年制コースの場合、1年次に和・洋・中の調理の基礎を身につけた後、2年次は1年間を4クールに分けて、フレンチ、イタリアン、日本料理の「フルコース」もしくは「アラカルト」の実習を学生自身で選ぶことができます。

さらに、メニュー開発や原価計算を行う「レストランシミュレーション」教養を身につけて接客を実践する「コミュニケーション実習」など、ユニークな授業も用意しています。このような授業を通じて、自分に何が向いているかを見つけていくのです。

―多くの調理師専門学校は、1年制と2年制のコースがあります。どのような違いがありますか?

1年制の課程は、短期間で専門スキルを習得できるカリキュラムになっています。これは、早く社会に出て活躍したい人には向いています。一方で、2年制の課程は、幅広い授業や実習を経験するので、将来の選択肢を広げることができます。

共通カリキュラム以外で何を学べるかがポイント

―調理師専門学校を選ぶ際のポイントがあれば、お聞かせください。

これは私の持論でもありますが、校舎の設備を見れば、その専門学校のコンセプトがわかります。校舎は注文住宅と一緒で、その学校の意向が強く反映されています。

最近は校内にレストランを併設し、実習型の授業などで活用する専門学校も増えています。最新鋭の調理器具にこだわる学校もあれば、ホテルで使うような大型の調理機器を配備している学校もあります。ここからもどういう実習をして、どのような調理師を養成したいかが見えてきます。

皆さんにぜひチェックしてもらいたいのが、厨房です。厨房は使い込むほどにどうしても汚れていきます。それでも管理の行き届いた学校なら、年季が入った厨房も清潔に保たれています。自信がある学校は、厨房を中央に配置して、オープンキャンパスでも堂々と見せてくれます。現場の衛生管理は、教育の指針を見る物差しにもなるでしょう。

また、専門学校を卒業すれば、「調理師免許」「製菓衛生師」「菓子製造技能士」などの国家資格を取得できると思われがちですが、学校によってはコースを修了しても受験資格を取得できないケースもあります。卒業時に取得できる資格はしっかり確認しておく必要があります。

もうひとつ、調理師などの国家資格を取得するための専門学校は、国家試験に合わせた共通カリキュラムで約半分の授業を行っています。そのため共通カリキュラム以外の部分で、何をしているかが各学校の特色となります。そこまで授業内容をしっかりチェックして、学校選びができると理想的ですね。

―調理師免許取得後、卒業生はどのようなお店に就職しますか?

調理師専門学校の卒業生の就職先は、一流ホテルや一等地に立つレストラン、歴史ある日本料理店などが挙げられます。プロの技術を身につける以上、こうした店舗で活躍する調理師を目指してほしいと思います。

専門学校を選ぶ際は、卒業生の就職先を確認すべきです。学校によって、特定の業界や地域との強いネットワークがある場合もあります。「ここで働きたい」という明確なイメージがある場合は、その店舗や企業への就職実績がある学校を選ぶことで夢に近づける可能性が高まります。

―最後に調理師を目指す高校生とその保護者にメッセージを。

気になるレストランやカフェがあれば、必ず現場に足を運んで、自分の目で見て、舌で味わって体感してほしいと思います。大切なのは、「誰かが」ではなく「自分が」どう思うかです。興味を持ったら自分で調べて、行動するクセを高校時代からつけてほしいと思います。

自分から一歩踏み出してチャレンジした経験は、専門学校入学後だけでなく、その先の未来においてもきっと役立つことでしょう。

調理分野のポイント

1 設備から学校のコンセプトがわかる

学校の設備から実習内容や養成したい調理師像が見えてくる。厨房設備の清潔さも要チェック!

2 共通カリキュラム以外に何ができるか

国家試験対策の共通カリキュラム以外に、どのような授業や実習があるかでその学校の特色がわかる。

3 卒業生の就職先をチェック

各学校には独自の業界や企業のネットワークがある。志望する企業への就職実績を確かめておこう。

この質問に答えてくれた人

学校法人 誠心学園
東京誠心調理師専門学校
広瀬 道(おさむ) 理事長
東京ヒルトンホテル勤務後、学校法人誠心学園に入職。神奈川県専修学校各種学校協会副会長、全国製菓衛生師養成施設協会副会長、神奈川県洋菓子協会常務理事、内閣府6次産業化人材ワーキンググループメンバー。
取材後記
「機械化が急速に進んでいる調理業界で必要な人材になるには、人に興味を持ち、自分から動いて情報を集めてそれをどう組み合わせていくかが大切」という広瀬理事長のお話がとても印象に残る取材だった。
学校紹介
東京誠心調理師専門学校

東京都大田区蒲田3-21-4
TEL 03-3734-4411
https://www.seishingakuen.ac.jp/tokyo

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