近年、デザイン業界でもデジタルシフトが加速している。
変革期にある現場で求められるのは、「手を動かしながら考える」ことで身につけた発想力や創造力という、昔から変わらないデザインの本質である。
デザインの学びと業界の現状について、桑沢デザイン研究所造形分野 責任者の小関 潤先生に話を伺った。
デジタル時代も変わらない本質的な「デザインの力」とは?
デザインが求められるフィールドが拡大中
―まず、デザイン業界の現状についてお聞かせください。
デザイン業界は大きな変革期にあります。これはコロナ禍に入る前からですが、仕事のデジタルシフトが加速しています。
例えば、グラフィックデザインの領域では、企業のWebサイトやECサイトのデザイン、ゲームアプリのデザインなど、従来の紙ベースとは違ったニーズが増えています。
もちろん、紙でもWebでもデザインの基本は変わりません。それでもWeb系、デジタル系に強いデザイン会社に仕事が集まっている印象があります。
また、コロナ禍で「おうち時間」が増えたことで、こだわりをもってモノを買う人が増えています。
これはプロダクトもファッションも同様で、似通った汎用品より趣味性の高い商品が注目されています。この傾向がさらに加速するのは確実で、ここでもデザイナーの役割は大きくなっています。
全体としては、デザインが求められるフィールドは広がっており、就職に関しても専門学校で確かな技術を身につければ、それほど心配はいらないと思います。
―デザインの専門学校では、具体的に何を学べるのでしょう?
わかりやすい分野でいうと①ビジュアル、②プロダクト、③スペース、④ファッションの4つに分けるのが一般的です。①はグラフィックデザインやWebデザイン、②は家電や家具など製品のデザイン、③は空間やインテリアデザイン、④は服飾系デザインとなります。
各分野で学べるのは、絵を描く、モノをつくるという技術だけではありません。むしろ、手を動かして生み出した「かたち」を通して、社会に何かを提案する方法を学ぶのです。
例えば、私が桑沢デザイン研究所で担当する『基礎造形』の授業では、立体の造形を通して、色、形、素材をどう扱うかを学びます。
大切なのは、「手を動かしながら考えること」。
課題では、同じ長さの木の棒を使って、自由に作品を組み立てるといったテーマが課されます。ここで、手を動かしながら、刻々と変わっていくアイデアを作品に落とし込む力が問われます。
座学の理論だけでなく、実際にモノをつくってみることで発想力、創造力が磨かれます。
―コロナ禍において、デザイン系の授業はどう進めたのでしょう?
2020年の授業はオンライン中心でしたが、2021年に入ると半分以上は対面になりました。
最初は、モノを扱う実習をオンラインでやるにはどうすればいいのか、教員は悩みました。ただ、オンライン授業に慣れてくると思いのほかメリットが大きいことに気づきました。
例えば、私の『基礎造形』の授業だと初期のアイデアスケッチなど、制作プロセスを学生同士がオンラインで共有することで、教育効果が高まりました。今後もオンライン環境を併用していくと思います。
専門学校と大学の違いは 少なくなってきている
―デザインを学ぶ際、専門学校と大学の違いはありますか?
一般的には、専門学校はデザインの専門的なスキルを学んで即戦力を目指すのに対し、大学は幅広い教養を身につけながら、デザインを学んでいく傾向があるといわれます。
ただ、専門学校のほうも何かの分野で専門性を突き詰めれば、自然と知識は広がっていきます。ファッションデザインを学ぶなら、現在に至るデザイン史を学び、その背景にある過去の社会的なムーブメントなどにも関心を持つ必要がありますよね。
私が勤める桑沢デザイン研究所でも理論系科目にかなり力を入れており、両者の違いは少なくなっているのが実情かもしれません。
―デザイン系専門学校を選ぶ際のポイントを教えてください。
やはり興味のある学校を見に行くことが一番です。学校説明会やオープンキャンパスなど、機会は豊富にあります。
専門学校には、各校それぞれの雰囲気があります。設備だけではなく、そこに通う学生や教員、卒業生が醸し出すものです。
その点では、各学校の卒業生作品展を見に行くのがおすすめです。どんな先輩がいて、どんな設備でモノづくりをしているのかがすべてわかります。
可能なら、先輩のポートフォリオ(作品集)を見せてもらえるといいですね。先輩の1年次からの成長の軌跡を詳しく見ることで、自分の将来像もイメージできます。
―卒業後に想定される就職先についてお聞かせください。
グラフィックデザイナー、Webデザイナー、プロダクトデザイナー、ファッションデザイナーなどの専門職を目指せるだけでなく、最近は社会の幅広い分野でデザインの力が求められています。
最近の例では、ホテル業界やコンサルティング業界などへの就職を決めた学生もいます。卒業生の就職先も学校選びの指針になるでしょう。
―最後にデザインに興味がある高校生にメッセージを。
高校時代からデザインの視点で世の中を観察する訓練をしてきてほしいと思います。
街の看板にもカフェの椅子にも必ずデザイナーの創意工夫があります。その意図を考えてみてほしいのです。
また、自分の身の回りの社会にもっともっと関心を持ってください。ネットだけでなく、本や新聞で情報を集めることで、社会の見え方は大きく変わります。
当たり前の風景にふと疑問が持てるようになれば、それがデザインを学ぶ第一歩かもしれません。
デザイン分野のポイント
1 まずは学校の雰囲気を見ること
説明会などで学校の設備や先輩たちの雰囲気を見れば、その学校の教育理念が見えてくる。
2 先輩のポートフォリオをチェック
卒業生作品展などで、先輩の1年次からの作品制作の足跡を見ると自分の将来像もイメージできる。
3 業界の卒業生ネットワーク
先輩の就職実績も要チェック。クリエイティブ業界で働いている卒業生が多い学校に通えば、そのネットワークの一員になれるチャンスが広がる。
この質問に答えてくれた人
色、形、素材を理解するために「手を動かしながら考える」同校の教育方針は、毎度のことながら社会人の我々も思わず参考にしたくなる。
取材時に開催されていた、同校の卒業生作品展の圧倒的なクオリティに脱帽した。
→『進路の広場』で専門学校 桑沢デザイン研究所を見る
専門学校 桑沢デザイン研究所
造形分野 責任者
小関 潤 先生
桑沢デザイン研究所卒業後、教員として「造形」分野の授業を担当。
『ハリー・ポッター』シリーズ1〜7巻(静山社刊)の装丁、広告、販促物などのデザインを手がけた経験を持つ。