グラフィックデザイナーやファッションデザイナーは、いつの時代も若者の憧れの的。トレンドの移り変わりが加速するこの分野で、今どのような人材が求められているのか。
デザインの分野で多くのプロを輩出してきた桑沢デザイン研究所の造形分野責任者・佐藤竜平先生と進路支援課課長の高橋清司さんに業界の現状や求められる人材像について聞いた。
社会の課題を解決する観察力・発想力・構成力を育むデザインという学び
卒業生の転職率は高いが業界内の定着率も高い
—デザイン業界の現状について、お聞かせください。
佐藤 経済規模でバブル期と比較すると縮小傾向ではありますが、広告やWEBサイト制作、プロダクト、空間、ファッションまで、「デザインの力」が求められる領域は、近年ますます広がっています。
高橋 デザイン系専門学校への求人は非常に安定していると考えていいと思います。デザイナーというと「いいクリエイティブのためには、長時間労働は当たり前」というイメージが強いのですが、最近は「働き方改革」の影響で多少変化しつつあります。
ただ、若いうちはひたすら働いて力をつけて、独立・起業を目指すモデルは昔も今も変わりません。それもあって、デザイン系専門学校の卒業生の転職率は非常に高いのですが、業界定着率も高いので、そこはポジティブに考えていいと思います。
佐藤 就職先は、事業会社と制作会社に大別されます。大手メーカーや広告代理店、IT企業、ゼネコンなどが事業会社で、その下でデザインの実務をするのが制作会社と考えていいでしょう。デザイン系専門学校の卒業生は、主に制作会社に就職して、ステップアップしていく未来像を描く人が多いと思います。
—デザインという言葉は社会で広く通じていますが、具体的にはどんな分野があるのでしょう?
佐藤 デザイン系専門学校で学べる分野は本当に多様です。図1にまとめましたが、まずA群として、デザインを領域ごとに学ぶ学校があります。グラフィック、プロダクト、空間、ファッションなどが主な分野です。
次にB群として、興味・関心のある職種ごとに学べる学校があり、さらにC群として、技術の修得や資格取得を目指す職業訓練校的な色合いが強い学校もあります。
—デザインをすることで身につく力を教えてください。
佐藤 例えば桑沢デザイン研究所では、デザインの基礎知識や歴史から、細分化された要素技術まで、かなり幅広く学びます。そして、2.3年の課程で卒業制作をして、社会に出ることになります。在学中は、課題制作を通して、デザインのプロセスを学びます。
それは、「調査」→「発想」→「設計」→「制作」→「提案」のサイクルをひたすら繰り返すことを指します。ここで身につく「観察力」「発想力」「構成力」は、いずれも社会のどの分野でも役立つ力です。学びとしての「デザイン」は最近ますます注目されていて、夜間部に通う社会人の方が増えているんですよ。
—デザイン分野を目指す学生に不可欠な素養とは?
佐藤 よく絵がうまい人はデザイナーに向いていると単純に考えがちですが、デッサン力は必要な資質の一部でしかありません。むしろ向いているのは、進んで試行錯誤ができる人。つまり、さまざまなことに興味を持って、行動できる人だと思います。
ただ、やみくもに何でもやってみるのではなく、自分なりのこだわりも必要です。「T字型人材」と呼ばれるような幅広い適性を持ちながら、得意分野に関しては限りなく深い知識がある。そんな人が理想的です。あとは、持続力も必須です(笑)。やはり人並み外れた発想力があってもつくり上げる力がなければ、モノは生まれませんからね。
—デザイン系の専門学校を比較する上で、どのような点をチェックすべきでしょう?
佐藤 これは卒業制作を見ることに尽きますね。どんな先輩がいて、どういう姿勢でものづくりをしているかすべてわかります。もちろん学校の規模や雰囲気が自分に合っているか現場を見て判断することも大切だと思います。
デザインは専門職の領域。基本的に学歴は関係ない
—就職をする上で、大学と専門学校の違いはあるのでしょうか?
佐藤 デザインは専門職の領域なので、基本的に学歴は関係ありません。ただ、大手メーカーなどは大卒者を採用する傾向が強いですが、その進路を目指すなら、専門学校から大学に編入するという選択肢もあります。
ファッションなど、専門学校が圧倒的に強い分野もありますので、専門学校と大学をフラットに並べて、学びたい内容で進学先を選ぶべきでしょう。
高橋 就職については、どの学校も基本的に好調です。卒業生の就職実績を見るとその学校と志望する企業の関係性の強さが見えてくると思います。大手企業に入れば満足のいく仕事ができるとは限らないのが面白いところでもあります。デザインは、実力主義の世界です。幅広く情報収集をして、目指す未来像に近づける進学先を選んでください。
デザイン分野のポイント
1 卒業制作展で学びの特徴がわかる
卒業制作展を見に行くとその学校の授業や実習の充実度がよくわかる。
2 学生の雰囲気と多様性をチェック
デザイン系の学びは現場の雰囲気が重要。学生の多様性も創造性を広げる上で要チェック!
3 求められるのは行動力と持久力
美術的な才能よりも積極的な行動力と作品を最後までつくり上げる持久力が重要になる。
この質問に答えてくれた人
進路支援課 課長(入試/広報/就職)
高橋 清司さん
1999年桑沢学園に入職。学生募集、就職支援などを担当。大学アドミニストレーション(修士)。
造形担当教員・造形分野責任者
佐藤 竜平先生
多摩美術大学美術学部卒業。
1998年より桑沢デザイン担当専任教員。「基礎造形」などを担当。