デジタル化の時代にこそ学ぶべき 立体造形から見えるデザインの本質

社会のデジタル化が加速するなか、デザインが担う領域も変化しつつある。一方、ファッションや空間デザインの領域では、「環境にやさしい」がキーワードになっている。

「デザインは物理的な造形とデジタルの融合への過渡期にある」と語る桑沢デザイン研究所スペースデザイン分野大松俊紀先生に、デザインの学びの最新動向について伺った。

生成AI時代に際立つ物理的な造形をゼロからつくる力

環境にやさしく持続可能なデザインに注目が集まる

―大松先生が考えるデザイン業界の現状についてお聞かせください。

世界的な環境への関心の高まりを受け、地球にやさしい材料や持続可能な方法を用いたデザインに注目が集まっている気がします。建築デザインの分野であれば、古いマンションや空き家を使ったリノベーションで新たな空間を創出するような事例が増えています。ファッションデザインの分野でも環境にやさしい素材やリサイクル素材を使った作品に注目が集まります。

一方で、デザインの主流が物理的な形のないものにシフトしている動きも感じます。具体的には、ゲームアプリ、アニメ、映像などのデジタル作品のほか、ITを用いて社会のシステムをデザインするような新たな分野もあります。

私が務める桑沢デザイン研究所は、造形教育に力を注いでいます。デザインを物理的な「かたち」に落とし込んだ作品づくりが、デジタルなテクノロジーと融合して、どのように変化していくのか……今はその過渡期だと感じています。

生成AIの登場で、2次元や3次元の画像がかなり手軽につくれるようになっています。しかし、それは2次元の画面上のもので、実際に模型をつくって物理的な3次元の形に落とし込んでわかることもあります。デジタル時代だからこそ、物理的な造形をゼロからつくれるデザイナーが求められる可能性も大いにあると思います。

―デザインの専門学校では、具体的に何を学べるのでしょう?

デザインの分野は、①ビジュアル②プロダクト③スペース④ファッションの4つに分けるのが一般的です。①は広告や雑誌、商品パッケージなどのデザインやWebデザイン、②は家電や雑貨など製品のデザイン、③は建築、インテリアデザインや家具、④は服飾系デザインとなります。

各分野で学べるのは、絵を描く、モノをつくるという技術自体ではありません。手を動かして生み出した作品によって、社会に新しい何かを提案する方法を学ぶのです。

また、デザインをする上で重要になるのは、社会を観察する力です。観察して得た課題に対して、自分なりの仮説を立て、作品として解決策を提案し、検証していく。この課題発見→仮説立案→提案・発信→検証のサイクルを繰り返すのがデザインの学びだと思います。

―デザインを学ぶ際、大学と専門学校の違いはありますか?

一般的には大学は学問の修得を目指し、専門学校は職能の体得を目指す場所と考えられています。大学は幅広い教養を身につけながら自分のペースで学べるのに対し、専門学校はスピードと量を重視して即戦力を目指す学びを展開しています。

ただ、専門学校の教育内容もさまざまで、一概に言えないのも実状です。桑沢デザイン研究所では、理論系科目にかなり力を入れており、昼間部では大学4年間の学びを3年間に凝縮したカリキュラムを提供しています。

―専門学校を選ぶ際、どのような点をチェックすべきでしょう?

学校のロケーションや知名度も大事ですが、私は教員をよく見るようにしています。どのような専門分野の専任教員がいるのか、実社会のどの分野で活躍している外部講師がいるのか……できれば、教員のバックグラウンドに多様性があると学べるデザインの幅も広がります。

興味のある学校が見つかったら、現地を見に行くことも重要です。学校説明会やオープンキャンパスなど学校を見学する機会は豊富にあります。なかでも注目してほしいのが、各校の卒業生作品展です。卒業制作には、学生がその学校で学んだすべてが詰まっています。現場で先輩の話を聞き、さまざまな作品を見れば、その学校の教育方針がわかります。

桑沢デザイン研究所の卒業生作品展
卒業生作品展の詳細はこちら

多業種で活躍できるのもデザイン分野の強み

―デザインの専門学校を卒業した後の進路についてお聞かせください。

卒業後は、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、インテリアデザイナー、ファッションデザイナーなど、さまざまな専門職を目指すことができます。デザイン会社広告代理店メーカー系企業など就職先も多彩です。最近は、コンサルティング企業へ就職する学生なども増えています。

また、デザイン業界では、就職後に転職してキャリアアップしていく人もたくさんいます。社会に新たな価値を提案する「デザイン思考」を身につければ、多業種にキャリアシフトできるのもデザイン分野の強みだと思います。

―最後にデザインに興味がある高校生と保護者にメッセージを。

親子で美術館や展覧会に行くなど、普段からアートやデザインに触れる機会をつくることで、作品を見る目が養われると思います。いい作品には二度見してしまう魅力があります。遠くから見て「お!」と思い、近づくとさらに新たな発見がある。

高校時代からそんなアート作品に触れ、そこに何があるのか深く考える経験ができれば、デザインを学ぶ上で大きな力になると思います。

デザイン分野のポイント

1 どのような背景の教員がいるか

どのような専門分野の専任教員がいるのか、どの業界で活躍している外部講師がいるのかなどをチェック!

2 在学生の作品をチェックする

卒業生作品展などで在学生の作品を見るとその学校の教育方針や実習で身につく力が見えてくる。

3 業界の卒業生ネットワーク

クリエイティブ業界で働いている卒業生が多い学校を選べば、そのネットワークの一員になれる可能性も。

この質問に答えてくれた人

学校法人桑沢学園
専門学校 桑沢デザイン研究所
スペースデザイン分野
大松 俊紀 先生
大松俊紀アトリエ代表(一級建築士)。京都工芸繊維大学卒業。The Berlage Institute, Amsterdam修了。ロンドンCHORA/Raoul Bunschoten勤務等を経て、2005年から現職。建築家として住宅の設計を行うほか、家具デザイナーとしても活動している。
取材後記
10年後、50年後の社会との関係を考えて2歩先を見た作品作りをしてほしい。という大松先生のお話が強く印象に残った取材だった。このような視点を持つことで普遍性のある作品を生みだせるのだろう。
学校紹介
専門学校 桑沢デザイン研究所

東京都渋谷区神南1丁目4-17
TEL 03-3463-2432(進路支援課)
https://www.kds.ac.jp/

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