作るだけでなく、衛生管理から 販売まで幅広く学ぶ意識を持とう

美しいケーキを作るパティシエに憧れを持つ人も少なくないだろう。お菓子作りやパン作りにはもちろん技術が必要だが、それだけで充分だろうか。国際フード製菓専門学校・校長の広瀬 道(おさむ)先生に、業界の現状から今後必要となる人材像と専門学校の選び方についてお話しいただいた。

お客様のライフスタイルに沿った販売方法が求められる

—製菓・製パン業界の状況と今後の展望をお聞かせください

ホテルや大手の洋菓子チェーンなどに代表される企業型の職場と、町の洋菓子店のような個人店型の職場と、働き方という点では二極化しています。

企業型では分業体制が進んでおり、勤務時間もある程度管理されている傾向にあります。これに対して個人店型では、少人数でさまざまな仕事をこなします。労務管理は大手のようにはいきませんが、そのかわりに作るところからお客様に販売するところまでを経験できる場合が多い。それぞれに長所・短所があります。

一方、お客様の立場で考えると、ショッピングモールなどに入っている店は比較的遅い時間まで開いていて便利ですが、個人店などは夜7時くらいで閉店してしまう場合も多く、日中仕事をしている人はなかなか買いにくい。それなら営業時間を遅くにずらせば、平日に買う人がもっと増えるのではないか、と想像することができます。

この業界は、どうやったらもっと売ることができるのかという点で、余地が残されていると感じます。ネット販売なども他の業界に比べればまだまだ普及していません。お客様のライフスタイルに寄りそって商品をお届けしたい、という意識が今後ますます求められると思います。

—どのような人がこの業界に向いているでしょうか

やはりお客様あっての商売ですから、「ありがとう」と言われて喜びを感じられる人が向いているのではないでしょうか。人とかかわる経験を大切にしておいてほしいということになりますね。

業界の大変さをよく理解しておいたほうがよいという人がいますが、それよりも高校生のうちにこの分野に対する「好き」という意識をどれくらい深めておけるか、ということが後々の成長につながると思います。

この業界に限りませんが、インターネットではブラックな職場のことなど、悪いところをクローズアップする傾向があります。しかしそれが真実とは限りません。そういうものに惑わされずに自分の道を進んでいくために「好き」を深めることが大切なのです。早くからいろいろなことにチャレンジしてほしい。

国際フード製菓専門学校・校長の広瀬 道(おさむ)先生

—専門学校を選ぶ上でのポイントを教えてください

やはり設備には専門学校の考えがストレートに出ると思います。本校を例に言えば、どのような現場に出たときにも困らないようにオーブンはわざと違うメーカーのものを並べてあるとか、生徒同士がぶつかって事故にならないように実習室は動線を考えたレイアウトにしてあるとか、そういうことです。建物や設備の見た目だけにとらわれずに、なぜこういう設備になっているのか聞いてみるといいと思います。

食品衛生の知識を持つ人材がますます不可欠に

—製菓衛生師の資格にはどのような意義がありますか

製菓衛生師を持っていないと就職できないというものではありません。それでも本校が取得を目指すカリキュラムを取り入れている理由は、その名のとおり衛生に関する知識を多く含んでいて、安全性の高い食品を提供するために大事なものだと考えるからです。

食品衛生に対する考え方は、完璧な職場がある一方で、実はまだ発展途上というところもあります。消費者の安全に対する意識は強まる一方ですから、こういった知識を持った人材はこれからますます求められると思います。

—この分野をめざす高校生にメッセージをお願いします

特にお菓子はおいしそうだと思われるような見た目の美しさが非常に重要です。若い人は感性を養っておいてほしいですね。たとえば美術館に行けばアーティストの色彩感覚に触れることができます。最近はデコレーションの域を超えたケーキも増えていて、ぬいぐるみのとおりにケーキを作ってほしいというようなニーズもあります。

高校の科目では、国語を大切にしておいてほしいですね。お客様に商品の説明をしたりPOPを書いたりしますから、言葉の力がとても大切になります。

「好き」を深めておいてほしいと言いましたが、お菓子やパンを「作る」ということにとどまらずに、どうやったらお客様に喜んで買ってもらえるだろうか、ということに思いが至るといいですね。作るほうは今後オートメーションが進むでしょうし、作る技術一辺倒では厳しくなります。本校でも販売やマーケティングの授業に力を入れていますが、こういうことに興味を持ってほしいですね。

製菓・製パン分野のポイント

1 施設や設備の充実度はとても重要

見た目だけにとらわれず、設備への「こだわり」をチェック。専門学校の姿勢が端的に出るところ。

2 食品衛生に関するカリキュラムが整っている学校を選ぶ

食品衛生に関する教育を受けた人材は、企業や店舗にとって必要不可欠。

3 技術だけでなく販売への興味を

「作る」だけでなく「売る」ことまで意識を持つことで希少な人材になれる。

この質問に答えてくれた人

学校法人 誠心学園 理事長
東京誠心調理師専門学校 校長
国際フード製菓専門学校 校長
広瀬 道(おさむ) 先生
東京ヒルトンホテル勤務後、(学)誠心学園入職。神奈川県専修学校各種学校協会副会長、全国製菓衛生師養成施設協会副会長、神奈川県洋菓子協会常務理事、内閣府6次産業化人材ワーキンググループメンバー
取材後記
「厨房設備1つとっても学校によって背景にある思想が違う」など、豊富な実話を交えながら製菓・製パン業界の現状を解説いただいた広瀬校長のお話を要約すると、今後この世界で活躍するためには「作る」だけでなく「衛生面の基準」を確実に学び、さらに「売る」ことへの意識を持つことが不可欠ということだろう。製菓分野はネット販売など、「計画販売」にまだまだビジネスチャンスがある、というお話も興味深い内容であった。
学校紹介
国際フード製菓専門学校
神奈川県横浜市西区北幸2-9-6
TEL 045-313-4411
https://www.seishingakuen.ac.jp/international/