カット技術+αのスキルで 仕事の幅を広げよう

厚生労働省が2019年に発表した「平成30年度 衛生行政報告例」によると、全国の美容室は25万1,140店となり過去最高を記録。競争の激しい美容業界で生き抜く力をいかにして身につけるべきか、国際文化教育総合研究所の桑田篤志先生にお話を伺った。

求人数は増加中。「得意分野」を持つことが業界定着のカギに。

人気美容室の採用枠は狭き門。そこで必要とされるスキルは?

—美容業界の現況をお聞かせください

今や美容室はコンビニエンスストアよりも多く、求人数も増加。福利厚生も充実し、給与水準も高まりつつあります。

ただし、専門学校卒業後はアシスタントとしてキャリアをスタートさせるケースが一般的。特に法人化された大手サロンや人気サロンでは、3年から5年をかけて自分の顧客を持つスタイリストへとステップアップしていきます。専門学校で美容師国家試験に合格できるレベルまで到達しても、すぐにプロとして活躍できる可能性は低いからです。

自動車の運転免許を例にすれば、免許取得直後の初心者では、お客様を乗せるタクシー運転手にはなれませんし、高額な報酬を得るレーシングドライバーにもなれないことと同様です。どうしても相応の「修行期間」が必要になります。

—それでも大手サロンや人気サロンが人気なのでしょうか

大手・人気サロンは客単価が高い分、スタッフの待遇面にも還元されます。教育体制も充実しているほか、地域性や客層に合わせた多店舗経営も多く、スキルに応じた配属先があることも魅力です。

また、大手には店舗のマネジメントから本部での人事や企画、ライセンス商品の物販部門まで多様な職種があり、適性に応じたキャリアチェンジも可能。仮にカット技術が人並みでも、優れたプレゼンテーション能力があれば、自社ブランドのヘアケア商品の営業職で活躍するチャンスもあります。

—もちろん人気店には人気店の厳しさもありますよね?

大手の採用試験は年々難化していますし、入社後も社内での厳しい競争の中でスキルアップが求められるのが現実です。そして、離職につながる要因の典型例が、自分よりも優れた技術を持つ人材の存在です。何よりも技術とセンスが問われる世界ですので、目に見える技術の差に挫折を感じて離職してしまうのです。

その中で生き残るために不可欠なのは、カット以外のパーマやカラー、ネイル、メイク、エステ、まつエク、着付などの得意分野を持つこと。”武器”となる技術がひとつでもあれば、店舗にとって不可欠な人材であり続けられます。

将来像を決めつける必要はなく、カット技術に左右されない将来の選択肢を広げるためにも、専門学校では幅広いスキルを身につけてほしいと思います。美容業界での仕事は幅広いのです。

—カット技術以外に特化した人材の受け皿として、美容業界も変化しているのでしょうか。

昨今は「ハサミを持たない美容師」とも呼ばれるカラーリストやアイリストのニーズが高まっています。例えば、カットよりもカラーを重視するサロンもあり、自分のスキルや適性を見極めた上で、カット以外の領域で存在感を示すこともできます。

例えば「まつエク」のスペシャリストであるアイリストは、専門的な技術に加え、「お客様と話せないこと」に苦痛を感じない性格が活かされる職種。話をしてお客様が動くと、細かな接着作業ができないため、接客中は会話をしないからです。

免許取得だけでなく、どれだけ学びを「上乗せ」できるか

—最後に学校選びのポイントを教えてください

国家試験合格に最大限の力を注ぐ学校もあれば、国家試験対策としての技術指導を1年目に済ませ、2年目にはその復習をしながら幅広い周辺スキルの指導を行う学校もあります。国家試験合格のための最低限の時間割なのか、その先の将来を見すえた濃密な時間割なのか、実際の時間割に表れる各校の教育方針やカリキュラムを確認した上で学校選びをしてください。

また、教員の実績やスキルも参考にしましょう。教員自らが日々カット技術を磨き、コンテストなどにも参加して上位入賞を果たしていれば、確かな技術を学べるはずです。

例えばカラーリングの指導では、日本ヘアカラー協会の認定を受けている専任教員が指導している専門学校もありますし、主にプロのスタイリストを対象とする「ダブルスター」の受験資格を与えられた認定校もあります。一般的に専門学校生は「シングルスター」を受験しますが、在学中にダブルスターに合格できれば即戦力の証になりますので、教員の知識・力量は大事なポイントです。併せて、専任教員の在籍数、担任制度の有無も要チェック。

その他、国家試験合格率や業界定着率など、各校はさまざまな指標を用いてアピールをしています。一点注意すべきは「合格率」。分母が在籍数か実際の受験者数かで数字が異なります。その点、職業実践専門課程の認定校には情報開示義務がありますので「リアルな数字」を確認して、後悔しない学校選びをしてほしいと思います。

理容・美容分野のポイント

1 カット技術以外に身につく技術

美容業界の仕事は幅広いので、多様な技術を学ぶことが重要。

2 「業界定着率」など就職結果を細かく調べる

狭き門の人気大手美容室に多数就職実績があるか、長く業界内に定着して活躍できているかまで調べたい。

3 時間割の充実度。専任教員の実績や人数

国家試験は通過点。その先を見すえたカリキュラムと指導教員の質が高い学校で学んでこそ成長できる。

この質問に答えてくれた人

学校法人 国際文化学園 国際文化教育総合研究所
桑田 篤志先生
専門学校で学生指導を行ってきた経験を活かし高校教員からの依頼による進路全般講演、専門学校講演、教員研修会などを年間50校以上行っている。
取材後記
桑田先生のお話で最もなるほど!と感じた点はカット以外の得意技術を持つことで生き残りの幅が広がるということ。結婚式で着付もできる美容師の価値の高さなどは分かりやすい具体例だった。技術とセンスがすべての世界なので鍛えてくれる学校を選ぶべきで、専門学校は免許を取るだけではなく、車で言えば公道をしっかり走れるドライバーにまで育てる場所であるべきというお話に深く共感した。
学校紹介
国際文化理容美容専門学校
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