記念日のプレゼントや自分へのご褒美など、いつの時代もジュエリーは人々の心に潤いを与えてくれる。
2020年代に入り、ジュエリーのニーズや業界の動向はどうなっているのだろうか。また、ジュエリー業界にはどのような仕事があり、どのようなスキルが求められるのか。
山脇美術専門学校ジュエリーデザイン科長の富永文先生にジュエリー業界のビジネス動向や人材ニーズについて伺った。
コロナ禍でSNSを使った商品PRの仕事へのニーズが高まる予感
コロナ禍でも就職には大きな影響なし
WEB販売に注目が集まる
―ジュエリー業界の現状について、お聞かせください。
2020年春の自粛期間は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きく、ジュエリー業界も、店舗での売り上げが上がらないという状況が続きました。ただ、夏以降はWEB販売、ブライダルジュエリーの需要が高まってきており、売り上げは回復傾向にあると聞きます。
ただ、コロナ禍によって、販売スタイルの変化が急速に進みました。
顕著なのはWEB販売、なかでもSNS販売の台頭です。百貨店などに店舗を展開する有名ジュエリーブランドもWEB展開を無視できない状況です。
社会全体としてもモノの売れ方が変わってきています。今後、ジュエリー業界では、WEBや動画で商品をPRするような仕事のニーズが高まる見込みです。
コロナ禍で消費者のマインドにも変化が出ています。ステイホーム期間の「生活充実」のトレンドからか、職人による一点モノのような商品に人気が集まっているのを感じます。ジュエリーも例外ではなく、オーダーメイドや高額ジュエリーが好調です。
また、ダイヤモンド、プラチナ、金など、ジュエリーには、資産としての価値もあります。家族がかつて使っていたジュエリーを現代風にリモデルするような仕事へのニーズも高まっています。
―専門学校では、ジュエリーについてどのように学ぶのでしょう?
ジュエリーの専門学校ではジュエリーデザインだけでなく、石留めの加工や伝統的な彫金など幅広い技術を身につけることができます。
その学校によって技術重視、アート重視など傾向があるので、事前に見極めておくのが大切です。
山脇美術専門学校はジュエリー制作に力点を置き、パソコンと手描きでのデザイン画制作、石留め、日本やヨーロッパの伝統彫金まで、徹底的に技術を鍛えます。
さらに、ジュエリーの歴史やブランディング、コーディネーター検定について学びます。最近はつくりあげた作品をPRするプレゼンテーションのスキル養成にも力を入れています。
―コロナ禍においてどのように学びの場を提供しましたか?
2020年4月は、休校し自宅課題を進めました。山脇美術専門学校ではパソコンを全員に貸与しているので5月からオンライン授業を始めました。
事前に送付した彫金工具と材料を自宅にセットアップして、オンラインで石留めや彫金の実習も行いました。「家でもできる」「下校時刻に囚われず集中できる」という声も寄せられ、手応えを感じています。
6月以降は、分散登校なども取り入れ、密を避けながら対面とオンラインの授業のミックスで進めています。
―ジュエリーを仕事にする人の適性や学生の傾向はありますか?
「好きこそものの上手なれ」といいますが、やはりジュエリーが好き、ものづくりが好き、手を動かすのが好きという人は、上達が早いと思います。
課題にのめり込んでいくので、「そこまでやるのか!」と驚かされるような作品も多く出来上がります。学生生活3年間でのアルバイトなどの経験により、制作だけでなく、デザインや接客に興味が湧くこともあります。
制作技術を武器に、それぞれの興味や強みを活かして様々な職場で活躍して欲しいと思います。
デザイナーのほか、アーティストや伝統彫金の匠という未来も
―卒業後に想定される進路について教えてください。
ジュエリーデザイナー、クラフトマン(職人)を目指すことができるのはもちろん、販売、広報、生産管理など、ジュエリーに関する幅広い仕事に就くことができます。
冒頭でもお伝えしましたが、WEB販売の担当という仕事も増えています。InstagramなどSNSを使って商品をPRし、オンライン会議ツールで販売するようなまったく新しい仕事が生まれています。
アーティスト(作家)として自分の作品を発信したり、伝統彫金など匠の道に弟子入りしたりする選択肢もあるでしょう。
―ジュエリーデザインを学べる専門学校を選ぶ際のポイントは?
最も大切なのは、その学校の「空気感」が自分に合うかどうか。2〜3年間毎日通う場所なので、志望校には必ず足を運んで現地の雰囲気を確かめるべきでしょう。
次に重要なのは「進路」。理想の将来像がある人は、それを実現できる会社がその学校の就職実績にあれば、夢を叶えられる可能性は高まります。
また、技術を身につける学校という性質上、設備面も大事なポイントです。自分がやりたいことを実現できる環境があるか、パソコンやデザイン系ソフトは支給されるのかなど、事前にチェックしておくべきでしょう。
―最後にジュエリー分野を目指す高校生にメッセージを。
ジュエリー制作は実にさまざまな要素が求められます。ジュエリーが好きなことはもちろんですが、数学・化学・歴史の知識、チームワーク、ひとつの事に打ち込む根気なども大切です。
特別なことをするよりもまずは目の前の勉強やアクティビティに一生懸命取り組んでほしいと思います。
ジュエリー分野のポイント
1 学校や工房の「空気感」を知る
2〜3年間通い、密度の濃い技術指導を受けるだけに、学校の雰囲気は何より大切。
2 就職実績に目標の企業があるか
理想の就職先があるなら、志望校の就職実績で確かめておくと実現の可能性が高まる。
3 工房の設備や支給されるパソコンなどの制作環境
目的を実現できる環境はあるか、パソコンやデザインソフトは支給されるのか要確認。
この質問に答えてくれた人
→『進路の広場』で山脇美術専門学校を見る
ジュエリーデザイン科長
富永 文 先生
ジュエリーデザイナー 作家/1級リモデル・カウンセラー/日本彫金会会員/山脇美術専門学院/ジュウリーアート科卒業
同校卒業後、ジュエリー企業2社で、クラフトマン、デザイナーとして勤務後独立。ブランドデザインや、オーダーメイド、リモデルを手がける。ジュエリーデザイン科長として、後進の育成にあたる。日本彫金会所属。