重要なのは「理由を考える」ということ
「グルテンフリー」が注目される背景にも理由がある
1925(大正14)年、国民の食生活の安定などを目的として創設された財団法人 糧友会を母体とする学校法人 食糧学院。この糧友会で顧問として尽力されたのが渋沢栄一子爵です。現在は、東京栄養食糧専門学校、東京調理製菓専門学校の2校を運営しています。「栄養」「調理」の2軸で独自の学びを展開する同学院の馬渕知子副学院長にお話を伺った。
食糧難、飽食の時代を経て「頭で食べる時代」へ
—「食と栄養」「医食同源」をキーワードとする食糧学院の教育理念について、改めてお聞かせください。
食糧学院は、食の専門指導者を養成する教育機関として、戦前に創設されたルーツを持ちます。食糧難の時代に始まった教育は、現代の「飽食の時代」に入り、そのあり方が少しずつ変化しています。
例えば、調理学校ならば、ひと昔前まで「見て美しい、食べておいしい」という食事を追究してきたわけですが、今やそれだけでは付加価値はありません。「きれいでおいしい」のは当たり前。血圧が下がる、血糖値が下がるといった栄養面、健康面の配慮も強く求められるのが今の「食」の現場です。
私は、これを「頭で食べる時代」の到来と捉え、材料、工程、栄養の部分まで「食」をトータルで学べる環境づくりを心がけています。「食と栄養」「医食同源」というキーワードは、こうした背景から生まれたものです。
—2つの専門学校を通して行う「食のスペシャリストの養成」とは、どのようなものなのでしょうか?
わかりやすく申し上げると「栄養」と「調理」を学べる学校のいいとこ取りをできる環境でしょうか。例えば、調理師を目指しながら、プロの栄養士から専門的な指導を受けられる。逆に、栄養士を目指しながら、一流ホテルのシェフから本格的な調理の指導も受けられる。キャンパス内で、こうした自然なコラボレーションが実現されていることだと思います。
管理栄養士や一流シェフとして活躍する現場のプロによる手厚い実習指導が豊富に受けられるのも大きな特長です。特に、東京調理製菓専門学校では、放課後に実習室を開放し、フリートレーニングも行っています。
また、食糧学院では企業と連携した産学コラボ事業にも力を入れています。これは企業とのコラボ商品やメニュー開発、農業体験・工場見学などの活動を通じて、食の知識と経験を深めるプログラムです。学生たちは、商品開発などに取り組むことで、原価計算や価格設定、パッケージデザインなど社会に出てすぐに役立つスキルを鍛えることができます。実際に、産学コラボ事業の成果が評価され、連携した企業に就職した学生も数多くいます。
高い合格率に裏付けされた管理栄養士の国家試験対策
—東京栄養食糧専門学校は、管理栄養士の合格者数で卓越した実績をお持ちです。
「食」の専門指導者を育成してきた長い歴史に裏打ちされた丁寧な指導の成果だと思っています。4年制の管理栄養士科では、専門性の高いカリキュラムで実践力を鍛えながら、1年次から段階的に国家試験対策も行います。2年制の栄養士科から管理栄養士科に転科することも可能です。やる気のある学生に幅広い機会を提供したいと思っています。
—2020年度から新たに健康スイーツ研究科を開設されました。ここではどのような学びが展開されているのでしょう?
新学科のキーワードは、「食のバリアフリー」です。現代人の食卓は、アレルギーや生活習慣病などの問題を避けて通ることはできません。食卓を囲むメンバーの体質や持病によって、食べられない食材がどうしても出てしまいます。
そこで、家族やクラスメイトがみんなで食べられる健康的なメニューを考える学科があってもいいのではないかと思いました。具体的には、アレルギーの原因となる卵、乳製品、小麦粉などの食材を使わないスイーツ、グルテンフリーや低糖質のパンやケーキの作り方などを学べます。
ここで重要なのは、「理由を考える」ということです。例えば、なぜ日本でグルテンフリーのニーズが高いかというと、小麦粉に含まれるたんぱく質の一種グルテンが日本人の腸に合っていないため、炎症が起こるケースが多いという背景があります。
流行りのダイエットメニューのように考えられがちな「グルテンフリー」には、こうした健康上の理由があるということも知ってほしいですね。
食のグローバル化を見据えフランス研修留学を導入
—一方、東京調理製菓専門学校のほうでは、フランス研修留学などが有名です。
これは2006年から始まったプログラムで、毎年20名程度の学生が参加しています。参加者は、星付きを含む一流ホテルで半年、老舗などの有名レストランで半年の研修を経験し、座学だけでは得られない貴重なスキルを身につけて帰国します。留学中の生活は、専門の現地スタッフがサポートしてくれるので安心して留学できます。この留学プログラムを目的に、入学してくる学生もたくさんいるんですよ。
—調理・製菓、栄養に興味をもつ高校生・保護者の皆さまへメッセージをお願いします。
私自身、医学だけでなく、栄養学を本格的に学んだことで、仕事の幅が大きく広がりました。たとえば、アイドルグループのAKB48のメディカル管理も担当するという興味深い仕事にも巡り会うことができました。皆さまも食糧学院で、「食」「栄養」「医療」と幅広く学ぶことで、将来の選択肢を広げることができると思います。
長い人生の中で「食」は不可欠のものです。「栄養」や「調理」を通して学んだ知識は幅広い場面で役立つことでしょう。「食と栄養」の深い知識を将来のキャリアに生かしてほしいと思います。
馬渕 知子 理事・副学院長
東京医科大学病院勤務を経て、マブチメディカルクリニックを開設。2011年、学校法人食糧学院理事に就任。2017年から同学院の副学院長も務める。専門分野は分子栄養学やアンチエイジング医療。AKB48の専属ドクターとしても知られる。