国家資格を要する職業である「歯科衛生士」。近年は、口腔ケアのスペシャリストとして、歯科医院での診療サポートだけでなく、在宅医療の分野にも活躍の場が広がっている。
求人のニーズが多く、「売り手市場」が続いているという歯科衛生士の仕事内容や現場の最新事情について、東京歯科衛生専門学校の齊藤和臣広報部長に話を伺った。
一生仕事に困らない国家資格。「売り手市場」でキャリアアップも!
学びの“タイパ”を重視する学生が近年急増中
―歯科衛生士を目指す近年の学生の傾向について教えてください。
歯科衛生士は、歯科医師の診療行為をサポートする口腔ケアのスペシャリストです。国家資格の職業で、近年ますます需要が高まっています。本校でも毎年、卒業生の数を大きく上回る求人が寄せられています。
この分野を目指す学生の傾向として顕著なのは、学びのタイムパフォーマンス(=時間対効果)を重視する学生が増えたことです。歯科衛生士の試験はマークシート方式で、頑張ればほとんどの受験生が合格できる内容です。そのため、最低限のカリキュラムで効率よく試験対策に取り組み、残った時間をアルバイトや課外活動に充てる人が増えています。
一方、より好条件で勤務できる「認定歯科衛生士」を目指す上では、プレゼンテーションをはじめとする試験対策以外の幅広い学びが求められます。自分の目標を見定め、それに向けて必要なカリキュラムを選択することが重要になりつつあります。
―歯科衛生士とはどのような職業なのでしょうか?
歯科衛生士の主な役割は「歯科診療補助」「歯科予防処置」「歯科保健指導」です。歯科医院でのサポート業務に加え、歯に付着した歯垢や歯石の除去、歯への予防薬の塗布といった歯科予防処置を行うことも可能です。また、患者さんに対して、歯や口腔の健康を維持するためのアドバイスを行うことも大切な仕事です。
混同されやすい職業として、歯科助手がありますが、歯科衛生士が患者さんの口腔内に触れるなどの直接的な処置を行えるのに対し、歯科助手は法律で直接的な処置を禁止されています。つまり、患者さんの口腔内に触れてケアを行えるのは、国家資格を持つ歯科衛生士だけなのです。
―近年、歯科衛生士の活躍の場が広がっているとお聞きしています。
歯科医院での診療サポートだけでなく、行政の登録訪問介護員として、在宅口腔ケアを担う仕事も増えています。20〜30代は歯科医院でキャリアを積み、結婚や出産を経て時間的に融通が利く訪問サポートの仕事に移行する方が多いように感じています。
訪問サポートの現場では、70代になっても活躍している歯科衛生士がたくさんいます。資格とそれに伴う現場でのスキルを身につければ、一生仕事には困らないですね。
―歯科衛生士を養成する専門学校の学びについてお聞かせください。
歯科衛生士の専門学校は、通常3年制となります。東京歯科衛生専門学校の場合、1年次は座学で歯科医療を知るための基礎的な学びに触れながら、校内で専門の医療器具を使った実習を経験します。座学では、歯科衛生学の基礎を学びながら、生化学、生物学、解剖学など、幅広い教養を身につけます。さらに、パソコンスキルやコミュニケーション、手話などを学ぶ授業もあります。
その後、2年次は高齢者歯科学、障害者歯科学など、さらに専門的な分野を学び、歯科医院や病院での臨地実習がスタートします。そして、3年次は臨地実習メインで学びながら、国家試験に特化した対策を行います。
「売り手市場」でキャリアアップが期待できる
―専門学校を選ぶ際のポイントを教えてください。
各専門学校を比較しても、国家試験の合格実績にそれほど大きな差はありません。それだけに、学内の設備や教員の指導などが重要になります。歯科医療の現場では、日々、最新鋭の診療機器が導入され、歯科衛生士にもそれに応じた対応が求められます。そのため、最新設備に触れる機会の多い学校を選ぶメリットは大きいと考えます。
教員の指導については、将来的に現場で働くことを見据えると、やはり医学に携わってきた専門家から学ぶことが重要だと考えます。その点が、神奈川歯科大学を母体に持つ本校のような専門学校で学ぶことの魅力になるのではないでしょうか。
―歯科衛生士を目指す際は、短大進学という選択肢もありますね。
多くの短大は大学附属病院と連携しており、そこへの就職実績が強みになります。安定した給与で休日もしっかりと取れるといったように、手堅い将来像を描いている人は、短大から附属病院への就職を目指すのもよいでしょう。
ただし、専門学校と比較すると短大の学費は高めな傾向にあります。授業内容については、専門学校と大きな差がないため、短大を志望する方も専門学校との併願を検討することをおすすめします。
―卒業後の想定される進路についてお聞かせください。
新卒業生の9割以上は歯科医院に就職します。希望すれば、在宅ケアをメインで行う訪問介護員になる選択肢もあります。最近は美容系医院も就職先として人気ですね。いわゆる審美歯科医療の分野です。現場では、歯科衛生士がホワイトニングなどの施術に携わっています。
ここ数年、歯科衛生士は「売り手市場」が続いています。離職率が高いという話もありますが、これは好条件の職場にキャリアアップしやすいことが一因だと考えられます。
―最後に歯科衛生士を目指す高校生と保護者にアドバイスを。
歯科衛生士の仕事において、何より大切なのはコミュニケーション能力です。そのため、学生時代から多くの人と話し、世の中をよく知ってほしいと思います。仕事中は基本的にマスクを着用していますが、それでも隠しきれないような魅力を身につけてもらえたらうれしいですね。
歯科衛生士分野のポイント
1 最新設備に触れられる環境か
進化する歯科医療に対応するため、最新設備が整った環境で実習ができるかが重要。入学前にオープンキャンパスや模擬授業で確かめておこう。
2 国家資格+αのスキルを学べるか
国家資格に加え、パソコンスキル、語学、手話など付加価値になるスキルが身につくかも確認。認定歯科衛生士を目指す人には特に重要なポイントです。
3 教員の指導の質をチェック
医学に携わってきた専門家から学んだ経験が将来の糧に。楽しさと厳しさを併せ持つ指導が理想。日頃の雰囲気を知るため、平日に見学するのもおすすめ。
この質問に答えてくれた人
歯科医師との円満な関係作りが大切な理由、歯科助手との役割の違いなど、業界の実情に触れる話題も興味深かった。
東京都北区滝野川1-75-16
TEL 03-3910-7211
https://www.tdh.ac.jp
→『進路の広場』で東京歯科衛生専門学校を見る
東京歯科衛生専門学校
齊藤 和臣 広報部長
東海大学大学院体育学研究科修了。趣味はラクロス。歯科衛生士に限らず、医療系をはじめ、様々な分野への進路相談を数多く実施している。