幼稚園教諭と保育士の国家資格は 学校によって取得パターンが異なる

政府により子ども・子育て支援新制度が制定されるなど、近年ニーズが高まる保育業界だが、保育者不足の解消が喫緊の課題となっている。明治29年創立の老舗校「彰栄保育福祉専門学校」の常務理事・芦野裕一先生に、幼児教育・保育を学ぶ専門学校の教育内容、資格取得の方法、学校選びのポイントなどについて伺った。

これまで以上に保育者へのニーズが高まっている

—幼児教育や保育をめぐるニーズや環境は、劇的に変化していると感じられます。業界の概況をお知らせください

私は保育業界に携わるようになり、41年が経ちます。以前はそれほど話題になりませんでしたが近年、少子高齢化問題が国家の根幹を揺るがす事態となっていることから、政府は「子ども・子育て支援新制度」を制定しました。その結果、企業内保育所や認定こども園、保育所が多く新設され、幼稚園教諭や特に保育士の需要が急増しています。本校でいえば、毎年100名程度の卒業生に対し1万人超の求人がある状況です。

相手の気持ちに寄り添えることが良い保育者になる第一歩

—どのような人が保育者に向いているのでしょうか?

笑顔で人当たりの良い学生は、現場で活躍しているイメージがわきやすいですね。入学時に周囲とうまくコミュニケーションが取れない学生が、見事に成長し立派な保育者として巣立っていくことも多々あります。高校までの基礎学力は保育を学ぶうえで欠かせませんが、高校時代に自信ややる気を失った生徒さんでも興味をもったこの分野にとびこみ、入学後に大きく飛躍することも多くあります。

保育とは教育と養護が一体化されたものです。子どもたちの育ちや発達を個々に意識して状況に応じた目標と計画が必要となります。子どもたちの気持ちに寄り添い、目には見えない、かくれている気持ちや心の変動に気づいていくことが求められます。ひとの気持ち、相手の気持ちがわかり、寄り添えることが良い保育者になる第一歩です。

—大学での学びと専門学校での学びはどのような違いがあるのでしょうか?

修学年数や取得する資格の種類が異なってきます。専門学校は保育分野で働きたいと強く希望する方が入学するため、教職員はもちろんのこと学生の熱意ややる気がとても高いといえます。

また、ただ授業を受けるといった受け身ではなく、保育現場で実際に働くところまでも考えて実践を多く取り入れています。例えば紙芝居や絵本を読む際、物語を読みあげるだけではなく、子どもたちの想像力などを豊かにするためにはどのような点をふまえるべきか、など掘り下げて学びます。高い知識と技術だけではなく、即戦力となる人材育成を担っている、これが専門学校です。

幼稚園教諭と保育士の両国家資格を2年で取得可能な専門学校は少ない

—保育系専門学校にはいくつか種類があるようですね。その違いはどこでしょうか?

保育の専門学校は、大きく二つに分かれます。卒業時に幼稚園教諭二種免許と保育士の資格が同時に取得可能な指定校と併修校が存在します。

併修校とは指定保育士養成施設であるため保育士資格はその学校の学びで取得可能ですが、文部科学省からの認可はないため短期大学の通信課程を経て幼稚園教諭免許を取得する必要のある学校を指します。

指定校は短期大学保育系学科進学時同様に2年間で2つの国家資格が卒業と同時に取得できます。その数わずか全国に26校。都内には10校しかありません。

幼教二種・保育士の資格取得パターン

—それではどのような点に注意して学校を選ぶと良いでしょう?

先ほどお話しした通り、併修校で幼稚園教諭免許を取るには、短期大学通信課程の学びを同時に進めていくことになります。専門学校と併修先の短期大学の教育方針や理念が一致していれば良いのですが、専門学校によっては併修先の短期大学と教育内容に関する連携がされず、短期大学に教育内容を丸投げしているようなところもあると聞きます。

また、教員の質という面でも注意が必要です。例えば新設の学校は、多数の教員を一度に揃えなければならないため、指導力や経験の点ではどうしてもばらつきが出てしまいがちです。

一方、歴史のある学校では長年活躍してきた教員が揃っています。また、もし欠員が出たときでも校風や教育方針に沿って新規採用を行いますから、教育の質が保たれていきます。

—保育専門学校のカリキュラムにはピアノや造形表現などの授業もありますが、経験のない学生にどのように教えていくのでしょうか?

入学時までにピアノの経験がない学生に「さあ弾いてみよう!」といっても無謀なことです。本校はピアノ未経験者へ門戸を開いています。初心者でも2年という短期間で技術を習得できるようピアノレッスンは個別指導を行っています。幼稚園や保育所で頻繁に使われている曲を中心に指導を行っています。

造形表現の授業では素材や技法に関して学ぶだけではなく、子どものワークショップ活動経験のある教員が、基礎から応用までを指導します。絵が描ける、上手といったことではなく子どもの発達や特徴、捉え方を学びます。時には実際に粘土遊びをしながら… 結構盛り上がるのです。

11月の学園祭では創作劇を演じました。舞台小物に衣装や物語までもすべて学生が準備し、学園祭で発表しました。併設幼稚園でも子ども達の前で演じ大変な盛り上がりに。子どもたちが楽しい!と思うものは、実は大人にとっても面白いのです。

重視すべきは何をどう学べるのか

—専門学校を選ぶ時のポイントを教えてください。

まず、取得したい資格がその学校のみで取れるのか、確認することが必要です。現在、幼保一体化の保育施設である幼保連携型認定こども園では、原則として幼稚園教諭と保育士の両方の資格を持つ「保育教諭」が保育にあたることが好ましいとされています。

短大での併修なしに両方の資格を取得したい場合は、選べる学校が限られてきます。また、併修が必要な学校は卒業まで3年間を要する場合もあります。

どちらの学校を選んだとしても身につけなければいけない知識と技術は一緒です。校舎がきれいか、通学しやすいかだけではなく、まずは長い保育教育の歴史をもつ指定校の中からぜひしぼっていただきたいと切に願います。

なお、見えにくいことですが、保育者というひとを育てる学校ですので、教職員が頻繁に入れ替わり、養成のあり方が引き継がれていない学校はおすすめしません。

一番良いのは、学校見学に行って疑問点を聞いてみること、それに在校生と実際に話してみることをおすすめします。そこから得られるものが多くあるはずです。自分がその学校に通っているイメージがわくかどうか、そのあたりを大切にしてほしいですね。

—これから保育者を目指す方に、何を期待しますか?

このところ、男性の保育者も増えていますし、女性の保育者のキャリアも長くなってきています。人手不足ということもありますし、長く保育者を続けてほしいですね。同時に、現場で終わることなく園を経営する、教育者になるなど、次のステップまで進んでくださる方が増えるのが、理想的ではないでしょうか。

幼児教育・保育分野のポイント

1 幼稚園教諭免許の取得方法

卒業時に保育士資格も同時に取得できる指定校と短大併修が必要な学校がある。

2 実習協力園をきちんと確保しているか

安心して実習ができる協力園をどれだけ確保している学校かを確認する。

3 ピアノや造形表現などの授業に専門学校ごとの特徴が表れる

初心者へのピアノの教授法や、造形表現の取り入れ方法などをチェックする。

この質問に答えてくれた人

学校法人 彰栄学園
常務理事  芦野 裕一先生
幼稚園教諭免許取得後、幼稚園運営・専門学校職員として従事、昭和56年から彰栄学園で実習・就職などの学生サポートや広報業務に携わり、平成30年より同学園常務理事。
取材後記
当時は珍しかった男性の保育者として、ご自身が子どもたちを見続けてきたからこそ、芦野先生のお話は優しい中にも説得力のあるものだった。彰栄保育福祉専門学校は、文京区の住宅街にある落ち着いた校舎で、歴史を感じさせる。大勢の「先生の卵」たちが元気に挨拶をしてくれたのが印象的だった。
学校紹介
彰栄保育福祉専門学校
東京都文京区白山4-14-15
TEL 03-3941-2613
https://shoei.ac.jp