人間のよきパートナーとして生活に寄り添ってくれる犬や猫といったペットたち。そうした愛玩動物の健康や美容を維持することが、動物看護師やトリマーの役割だ。2019年に「愛玩動物看護師」が国家資格となったことでも注目を集めているこの分野。動物たちと向き合う仕事において重要となる心構えや専門学校での学びについて、東京愛犬専門学校の植村豊校長に話を聞いた。
業界から高い評価を受けるJKC公認資格が“犬のプロ”であることの証明に
求められるのは幅広いスキル 動物看護師にとってもトリミング技術が強みになる
―動物看護・トリマー分野の現場で求められるスキルについて教えてください。
両分野に共通して求められるのは、何よりも「動物が好きだ」という気持ちです。単に「安定した仕事に就きたい」という思いでは、勉強にも仕事にも身が入りません。大好きな動物について学ぶからこそ、種類ごとの違いや雑学も含めて仕事で役立つ知識を吸収することができます。
また動物たちの扱いに関しても、愛情や興味を持っているかどうかで大きく差が生じます。特に犬の場合、野生下では群れで生活しており、主従関係を明確に理解しています。人間の動きを敏感に見極め、信用できるかどうかを判断しているのです。これに対応するためには、適切な方法で触れ合うことで信頼を深めるしかありません。
業種を問わず仕事として動物たちと向き合う際には、短時間で関係性を構築する必要があります。そのため、個体ごとの特徴を把握し、それに応じたコミュニケーションをとる技術をきちんと押さえておくことが重要になります。
具体的なスキル面では、「愛玩動物看護師」が国家資格となったことを受け、動物看護師の仕事に独占業務が加わりました。獣医師の指示のもとで行う採血やマイクロチップの挿入、カテーテルによる採尿などが主な内容です。加えて、動物病院では窓口業務をはじめ、内科外科的な診察の補佐、カルテ管理、動物の保定、患部の洗浄など、多岐にわたる業務を動物看護師が担っています。
また、診療の他にトリミング業務を行なうこともあります。看護の知識はもちろんのこと、トリミング技術を習得することは、動物看護師を目指す人にとっても大きな強みになるといえるでしょう。
―動物看護師になるために、専門学校ではどのように知識やスキルを身につけるのでしょうか?
動物病院での実習など実践的な看護教育も行われますが、中心となるのは愛玩動物看護師資格の取得に向けた座学です。点滴や注射の技術のほか、生態や行動などを含め動物医療に関する幅広い知識を学びます。
同時に、東京愛犬専門学校では動物看護学科にもトリマー教育を取り入れています。というのも、犬をうまく扱うためには、やはり実際に触れ合うことが大切だからです。トリマーのスキルを持っていれば診察はスムーズになりますし、トリミングを実施している動物病院でも活躍の場を広げることができます。
―トリマー・ドッグトレーナーを目指す学生は、専門学校でどのように学んでいますか?
修得に最も時間のかかるトリミング技術は主に実習で学びます。例えば本校の場合、愛犬総合学科のトリミングの実習時間は2年間で約1300時間。はさみの持ち方といった基本的な技術から徹底的に教えるようにしています。
一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の資格保有者が手本を見せ、学生はその技術を見て繰り返し練習します。校内試験についても短いスパンで実施しており、学生の習得度をチェックして学びを定着させます。こうした密度の高いカリキュラムにより、短時間での資格取得を実現しています。
また、ドッグトレーナーの養成については、実際にあらゆるタイプの犬を取り扱いながら、しつけや訓練に必要となる信頼関係を築くための手法を学びます。
本学の実習では、一般家庭で飼われている犬をモデル犬として預かっています。大切な家族を預かっているという緊張感の中、個性の異なる犬たちと触れ合うことで、現場と同様の実践力を身につけることができるのです。
業界のエキスパートである講師たちの授業が次世代のプロを育てる
―動物看護・トリマー分野の専門学校選びのポイントは?
授業を受け持つ講師のレベルは大きなポイントになると考えます。しかし、各専門学校が独自の資格を設けていることも多く、本当の実力を判断することは非常に難しい部分があります。
そこでひとつの指標になるのが、JKCの公認資格です。JKCとは、犬の競技会や血統証明書発行を実施している国際的な愛犬団体。全国のペットショップや動物病院と強いつながりがあるため、JKC公認資格を持っていれば〝犬のプロ〟として業界から非常に高い評価を受けることができます。
本校にはJKC公認資格を保有する一流の講師が揃っており、学生にも「JKCトリマーB級」の取得を目標として課しています。このように、業界で広く通用する資格が手に入るかどうかも、専門学校を選ぶうえで重要な指標になると思います。
―最後に、動物看護・トリマー分野で活躍していくための素養や資質があれば教えてください。
動物を扱うための正しい知識やスキルは専門学校に入ってから修得することができるので、高校時代に急いで身につける必要はありません。どうしても準備したいという人は、動物の種類や特性などの知識を楽しみながら勉強しておいてください。
動物看護やトリマーの現場で活躍していくためには、分野の枠を超えたスキルを持っていることが理想です。いずれ独立することになれば、どの分野でも共通して保定やトリミングなどの能力が求められるからです。どんな将来を描くとしても、いつか自分が独立するつもりで、幅広い学びに触れてほしいと思います。
動物看護・トリマー分野のポイント
1 動物分野に共通のスキルを修得できる
トリマーだけでなく、動物看護師を目指す人にもトリミング技術は求められます。動物を相手にする上で共通する知識が身につく学校を選びましょう。
2 プロフェッショナルから学べる環境か
授業や実習を担当する講師のレベルが学生の成長スピードに差を生みます。業界から評価を受ける資格を保有しているかどうかがひとつの判断材料に。
3 実習の量と質をチェックする
資格取得や技術向上のための実習時間が充実していることが重要です。一般家庭のペットを扱うなど、社会で役立つ経験を得られるかどうかも要チェック。
この質問に答えてくれた人

東京愛犬専門学校
植村豊校長
JKCトリマーの最高資格である「師範」を有する、全国でも屈指の“犬のプロフェッショナル”。JKC全犬種審査員、JKCトリマー・ハンドラー試験委員などを務める。