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待機児童問題などがクローズアップされ、ニーズが高まる保育業界。幼稚園教諭・保育士はいずれも慢性的に不足しており、人材育成に注目が集まる。
東京都内の伝統校である道灌山学園保育福祉専門学校の髙橋系太先生、東京教育専門学校の北原隆史校長に対談形式で、教育現場の現状や学校選びのポイントについて伺った。
多様化する幼稚園・保育園で教育者として求められる素養とは?
現場は慢性的な人材不足 求人倍率は30倍以上
―まず、幼児教育・保育業界の現状についてお聞かせください。
北原 少子高齢化が進むなか政府は、2015年に「子ども・子育て支援新制度」を制定し、多くの認定こども園や保育所が新設されました。おかげで、幼稚園教諭や保育士の需要が高まり、就職に関しては売り手市場が続いています。
東京教育専門学校では、約100人の卒業生に5000人以上の求人があります。ただ、保育所が急増したことで、以前と比べ、待機児童問題は解消され、これから就職が難しい時代が来る可能性もないとはいえません。
髙橋 幼稚園教諭や保育士は、常に忙しく、高いスキルも求められる、子どもの命を預かる仕事……など、労働環境としては、やはり大変なのは否めません。
ただ、以前は賃金も安く、ツライ仕事という印象もありましたが、現在は各種手当ても充実し、待遇は大幅に改善されています。
幼児教育は、人間の根幹を形づくる大切なものです。高度なスキルを持つプロが、十分な賃金を得て働ける環境をつくるべく、現場の意識改革が進んでいます。
徹底した「実学主義」 現場の実習にこだわる
―専門学校では、幼児教育・保育をどのように学ぶのでしょう?
北原 専門学校はやはり「職業人の育成」という意義が大きいと思います。大学は学問の探究をするのが目的なのに対し、専門学校は現場で役立つ実践力を養うことを目的としたカリキュラムが組まれています。
髙橋 私の考えも同様です。道灌山学園保育福祉専門学校でも「実学主義」を掲げ、リアルを見て体験する授業にこだわっています。
例えば、学生には、幼稚園・保育園で年間30日以上の実習に参加してもらいます。2021年度は例外でしたが、通常は4月に入学した学生は、5月にはエプロンを着けて、系列の幼稚園・保育園の保育室に入ります。
そこで、手遊び、紙芝居、ピアノ、歌など、授業で習ったことを実践します。現場を経験して、はじめて理解できることは多いと思いますね。
北原 もちろん、授業でも幼児教育・保育の実技や理論をしっかり学びます。それでも現場に出るとわからないことだらけです。
実際に子どもたちと向き合って、クエスチョンと出会い、壁にぶつかることが何より重要だと思っています。実体験による気づきによって、授業で得た理論的な知識が定着するのです。
―コロナ禍において、どのような学びの体制を取られましたか?
髙橋 実習系科目が多少影響を受けましたね。授業は分散登校を採用しながら、対面とオンラインを組み合わせて進めました。
実習は、施設実習を学内演習に切り替えることはありましたが、幼稚園や保育園での実習は予定通り実施できました。
北原 こちらもほぼ同様ですね。実習に関しては、2週間前から体調管理を徹底し、細心の注意を払って準備を進めました。
- 道灌山学園保育福祉専門学校
髙橋 系太先生
幼教二種・保育士の国家資格を取得できる「指定認可校」は意外と少ない
―専門学校ではじめて幼児教育・保育について学ぶ学生がほとんどだと思います。この分野への適性、向いている学生の傾向はありますか?
北原 やはり子どもが好きということがベースにはなりますよね。(子どもが)なんで泣くんだろう? なんで言うことを聞いてくれないんだろう? という疑問も好きならばこそ乗り越えられます。
現場が求める保育者の資質として、「人柄」と表現されることがあります。これは、「人間力」であり、人との関係調整能力、レジリエンス(立ち直る力)など、まさに今求められている「非認知能力」であり、保育者にとって重要な資質・能力です。
髙橋 私はずっと「笑顔」「あいさつ」「掃除」といった仕事の基本としっかり向き合えることが大事だと考えていて、当校では、その点をあえて厳しめに指導しています。
就職すれば、その園のやり方を一から学ぶことになります。教育方針、保育方針に合わせる「柔軟性」を身につけてほしいという思いもあります。
あと、ピアノの経験を気にする方も多いのですが、今は7割以上が未経験者です。入学後にしっかり指導するので問題ありません。
―保育系専門学校にはいくつか種類があるようですね。その違いはどこにあるのでしょう?
髙橋 保育の専門学校は、大きく2つに分かれます。卒業時に幼稚園教諭二種免許と保育士の資格が同時に取得できる「指定認可校」とそれ以外の「併修校」があります。
併修校は、指定保育士養成施設であるため保育士の資格は取得できますが、文部科学省からの認可がないため、幼稚園教諭二種免許は、短期大学の通信課程を経て取得する必要があります。
その点、指定認可校は2年間の課程で、2つの国家資格を卒業と同時に取得できます。指定認可校の数は全国に25校、東京都内には10校しかありません。私たちが指導にあたっている2校は、いずれも指定認可校になります。この違いを知っている人が意外と少ないんです。
北原 指定認可校イコール伝統校、併修校イコール新設校という傾向が強く、指導方法にも微妙な違いがあります。
例えば、先ほど髙橋先生の話にも出たピアノの指導に関してはやらなくてもいいという併修校もあるようなのですが、指定認可校として実績のある当校は、やはりピアノの指導にはこだわりたい。失敗して、悔しい思いをしながら、一生懸命練習するところからスキルを獲得する喜びを学んでほしいと思っています。
もう1つ、指定認可校は2年間で2つの国家資格を取得できることで、学費を抑えられる利点があります。併修校は、幼稚園教諭二種免許取得にあたり短期大学の通信課程を受ける必要があるので、費用負担が増えます。
指定認可校は当然ながら、2年間で卒業できるので、4年制大学の保育系学部や併修校よりも学費が抑えられるのは言うまでもありません。
伝統ある「指定認可校」は教員の質にこだわる
―その上で、学校選びのポイントがあれば教えてください。
髙橋 やはり、学校や先生の雰囲気、授業内容を事前に知っておくのが大切ですよね。これは学校説明会や体験授業で見ることができます。
例えば、当校は伝統校の責任として教員の質に強いこだわりがあります。そこはぜひ他校と比較しながら確かめてほしいですね。当校は事前に連絡をいただければ、学校説明会だけでなく、普段の授業も見学できます。
北原 幼児教育・保育の分野に関しては、やはり実習先もチェックポイントになると思います。ミスマッチを避けるには、実習先の選択肢が多いほうがいいのではないでしょうか。
髙橋 当校では学生に実習先を選ばせています。そして、選んだ実習先を学校側で最終チェックします。また、友達と複数人で同じ実習先に行かないような指導もしています。
北原 その先の就職も重要です。現状、求人自体はたくさんあります。ただ、「ここでよかった」と本気で思える就職先との出会いをどうサポートできるか常に考えています。
その点で伝統校は、卒業生が多くの園で働いているので、その信頼関係のネットワークで就職できる安心感があります。
もちろん、どこで働くかも重要です。福利厚生などを考慮すると法人の規模感も長く働く上での判断要素になると思っています。
髙橋 当校でも進路指導の専任教員が学生一人ひとりの相談にのっています。
北原先生もおっしゃったように、ここで信頼できるのが卒業生の実績です。卒業生が何人働いているかで就職先を評価できるのは、伝統校だけの強みだと思います。
- 東京教育専門学校
北原 隆史先生
―最後に幼児教育・保育分野を目指す高校生にメッセージを。
北原 できれば幼児教育・保育の現場に足を運んで、自分が本当にこの仕事をしたいのか確かめてほしい。出身園ならば見学等大歓迎ではないでしょうか。
髙橋 図書館で絵本や折り紙の本などに触れて、将来に役立つ知識のアンテナを張ってほしいですね。
また、自分が幼稚園・保育園に通っていた当時を思い出しながら、自分が先生になった将来像をイメージしてみるといいと思います。
幼児教育・保育分野のポイント
1 実習先のネットワーク
安心して実習ができる協力園の選択肢が多ければ、ミスマッチを防ぐことになる。
2 幼稚園教諭二種免許の取得可否
卒業時に保育士資格と同時に取得できる指定認可校と、短大併修が必要な併修校がある。
3 熱心な先生がいるかどうか
教育の質は先生に依存する。学校説明会や体験授業などで雰囲気を確かめられる。
この質問に答えてくれた人
東京教育専門学校 北原 隆史 校長(右)
平成3年3月修士(教育学)(東京学芸大学)/平成3年4月本校専任講師/平成29年4月本校校長(現職)
東京都豊島区目白2-38-4
TEL 03-3983-3385
https://www.wadaminoru.ac.jp
道灌山学園保育福祉専門学校 髙橋 系太 副校長(左)
児童館館長を経て学園管理部長として勤務。実習指導担当、夜間部担任を兼任。
東京都荒川区西日暮里4-7-15
TEL 03-3828-8478
https://www.doukanyama.ac.jp/
それにしても、専門学校で幼児教育・保育分野を学ぶなら、指定認可校+安心して働ける評判の良い幼稚園や保育園に多くのネットワークがある伝統校の存在を絶対に知っておいた方がよいと痛感した取材であった。
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